承前

 米国の排ガス規制「マスキー法」は、自動車業界が「対応は難しい」と訴えたことで施行時期が延期となり、段階的に基準を強化していくことになった。マツダは1973年にマスキー法対応のロータリーエンジン(RE)車を発売したが、年末の第1次石油ショックの発生を受けてREの燃費の悪さと低信頼性によって経営危機に陥り、住友銀行(当時)の支配経営の下でRE路線を縮小した。そんな中で、エンジン本体の改良や排ガス処理方式の修正で燃費を20%ほど改善したサーマルリアクター(T/R)方式のREを搭載した「サバンナRX-7」を1978年に発売した*1

*1 改善したとはいっても、レシプロエンジンに比べればまだまだだったが…。
「サバンナRX-7」(写真:マツダ)
1978年発売のモデルに搭載された「12A型ロータリーエンジン」(写真:マツダ)

 猶予期間があったとはいえ、1981年モデルから一酸化炭素(CO)と炭化水素(HC)の排出量はマスキー法の基準を完全に順守しなければならなくなった。マスキー法では、レシプロエンジンを基準に排ガス中のCO、HC、窒素酸化物(NOx)を従来の1/10に減らすことが求められる。レシプロエンジンの燃焼室は半球形だが、REは扁平(へんぺい)で燃焼が悪い。そのため、NOxの排出量はレシプロエンジンの1/2だが、COは5倍、HCは10倍と多い。つまり、REにとってマスキー法とは、NOxを1/5、COを1/50、HCを1/100にすることを求めた規制だ。

 1981年以降の規制にもT/R方式のままで対応しようとすれば、1973年モデルの二の舞になることは分かっていた。そこで1977年、私に「米国市場向けに触媒(CAT)方式のREを搭載したRX-7の1981年モデルを開発せよ」との命が下った。エンジン本体の改良で触媒の熱劣化の懸念は減っていたとはいえ、レシプロエンジンでHCの排出量を1/10にすることも難しいのに、REではそれを1/100にしなければならないのである。CAT方式でも難航することは目に見えていた。