イー・アクセスを巡るヤフーの動きがさまざまな憶測を呼んでいる。

 事の発端は、2014年3月27日にヤフーがイー・アクセスをソフトバンクから買収すると発表したことだ。計画では、まずイー・アクセスが同年6月1日にPHS大手のウィルコムと合併し、社名を「ワイモバイル」に変更。その時点で、新生ワイモバイルに対するソフトバンクの持ち株比率は99.68%(議決権比率は33.29%)になる。ヤフーは合併翌日の6月2日にそのすべてを現金で買い取る予定だった(図1)。その額は3240億円。記者会見でヤフーの宮坂学社長は「ネットサービスを中心とした通信事業を展開する」と述べていた。

※ 議決権比率の異常な低さについては後述する
図1●ヤフーによるイー・アクセス買収計画
図1●ヤフーによるイー・アクセス買収計画

 ところが、発表から2ヵ月も経たない5月19日、ヤフーはイー・アクセスの買収中止を発表した。買収決定時の大々的な記者会見とは対照的に、買収中止の発表は「協議を重ねた結果」としただけだった。

 このあまりの急変ぶりに、さまざまな臆測が飛び交っている。その有力説の1つは、ヤフーの親会社でもあるソフトバンク側の資金事情だ。

 広く報道されているように、ソフトバンクは米携帯電話3位の米Sprint Nextel社(現米Sprint社)を2013年に約216億米ドルで買収。続いて、子会社となったSprint社を通じて米4位の米T-Mobile US社の買収計画も進めており、こちらの買収総額は300億米ドルを超えると見られている。

 ここでイー・アクセス株をヤフーに売却すれば、多少なりともソフトバンクの資金に余裕ができるというわけだ。実際、相次ぐM&Aに対する資金の必要性から、ソフトバンクの有利子負債額は、2013年9月末時点で既に8兆8400億円あり、決して楽な台所事情ではなかった。

 ヤフーがイー・アクセスを買収した場合、ヤフーはイー・アクセスに約1700億円を融資し、イー・アクセスはこれを使ってソフトバンクから借りた約1300億円を返済する予定だった。これにイー・アクセスの株式売却で得られる金額を合わせると、ソフトバンクは約4500億円の資金を得ることができたのだ。