未来予測という作業は、太古の昔からの人類の夢であった。私たちの大脳が「時間」の概念を獲得して以来、未来は希望と不安の両方の色彩を伴って、小さなハートを揺さぶり続けてきたのである。だからこそ、私たちの先祖たちは、先の読めない狩猟生活から農耕を生み出し、米蔵を満たすことで未来への不安を少しでも減らそうと努めてきたのであろう。

 こうして余剰の時間とエネルギーを獲得し、それを注ぎ込むことで第二次~三次産業を発展させ、生産機能を集約させた。この集約地こそが都市であり、それを維持しているのは「秩序」である。秩序は、未来の不確実性を減らすための仕掛けである。つまり、それを求めるということは、私たちの大脳に埋め込まれた生来の性質なのであろう。

 今日ではその都市空間にも「スマート化」という冠の下、デジタル情報網が敷き詰められつつある。巨大な情報処理能力を用いて、身の回りで起きるすべてのイベントの現況を把握する。そして傾向を見いだすことで、未来を予測可能な状態にしようというわけだ。道路上の自動車の動きから、消費者の行動パターンまで、あらゆる事象を方程式にはめ込むことで、未来を予測し、予定調和へと持ち込まんとしている。

 未来を予測可能にすれば安寧に暮らせる。心配性の大脳はそれを望んでいるのだろう。しかし万物を構成する分子の単位にまで遡及し、帰納的な演算の積み上げだけで未来を予測することは、さすがに今のところはできない。結局のところ、適当な粒度で経験則や近似式を埋め込み、演算量を削減するしかないのである。

世にも不思議な興味深い曲線

 その、経験則や近似式として、世にも不思議な、そして実に興味深い曲線がある。拙著『メガトレンド2014-2023』でも利用した「S字カーブ」というものだ。このS字カーブは、生き物が生まれてからぐんぐん育つ成長期を経て、徐々に成熟していく過程を描いたものであるという。フラスコ内での微生物の増殖速度から、昆虫やネズミの繁殖プロセスにも当てはまる。

 さらにこのS字カーブが不思議なのは、ほかの様々な分野で使われているということだ。消費財の製造・販売に従事されている方であれば、このカーブを「ああ、普及率を表したものですね」といったふうに理解するかもしれない。実際、横軸に時間、縦軸にある商品の普及率をとってグラフ化すれば、多くのケースでS字カーブが描けるはずである。

 まだある。学習曲線、バグ収束率、毒物の投与量と影響の強さ、伝染病による死亡者数、新たに発見される元素の数などもこのカーブで表現できるという。さらには、芸術家が一生のうち各年齢において生み出す作品数もグラフ化すれば、このS字カーブになるという説まである。確かに、人の一生はこのカーブのようなものかもしれない。身長や体重のような肉体の成長もそうだが、心の成長の側面でもこの考え方は当てはまりそうだ。

 ある現象が、X軸に時間(分、時、日、年、世紀など)をとった、ある曲線に沿って進むという事実は、とても重要である。過去の状況から現在の位置を割り出すことによって、これからどういった経緯をたどるかということ、つまりは未来予測が可能になるからである。