台湾Foxconn(鴻海) CEOのTerry Gou(郭台銘)氏自らが、企業経営や電子産業に対する信念や哲学を語る。直言を好む郭氏らしく、第1回では、企業経営の本質を指摘する。抽象的な内容ではあるが、深い経験に裏打ちされたものである。同氏が見抜いた本質は、今後の連載でしばしば触れることになるだろう。 (大槻智洋=日経エレクトロニクス特約記者、TMR台北科技)

 Foxconnはこれまで、電子産業の中でも高速に成長を果たしてきた。民生機器の製造サービスにおいては首位を保持し、それ以外の分野でも売上高を伸ばし続けている。このような成長が実現した原因は何だったのか。これまでの経験に基づいて考え抜いた結果を、皆さんに紹介したい。事業経営を志す方々にとって参考になれば幸いだ。

経営者が理解すべき3要素

(写真:加藤 康)

 優秀な経営者と一口に言っても中身は様々である。しかし私の経験と照らし合わせると、一つの類型が浮かび上がる。すなわち、(1)専門技能、(2)経営能力、(3)財務活動という3要素の重要性を理解し、会得しようと行動し続けている人物である。

 (1)が重要なのは、自社の商品やサービスが満たすべき、顧客が求める質や速度を把握するためだ。(2)における企業経営とは何かについては、次の段落で言及する。特にここではリーダーシップの重要性を指摘したい。社員を鼓舞し共に目標を達成する喜びを体感させて初めて、会社は継続的に発展できる。

 (3)は必要な人材に入社してもらうために必要なことだ。会社の時価総額が向上すれば、欲しい人材が求めるストックオプションや員工福利(注1)を提供しやすくなる。こうして加わった人材が財務・税務、投資、マーケティングといった事業体の各機能を担ってくれる(図1)。

注1)員工福利とは、台湾で一般的なボーナスの一形態。社員は、現金または時価発行の株式を受け取る。これは株主総会で決議される純利益の処分法の一つであり、その費用は配布後に損益計算書に計上される。
図1 優秀な経営者は3要素を理解している
ここで言うITとは主に情報システムを指す。経営能力に関する説明は図2に記した。
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 投資やマーケティングにおいてFoxconnが何を重視しているかは、アクションカメラ企業への投資を思い出してくれれば理解してもらえるだろう。我々は近年、ベンチャー企業家と共に市場を切り開き、共に必要な技術やノウハウを修得しようとしている。