承前

 東洋工業(現・マツダ)に入社して1年ほど経過した時、ロータリーエンジン(RE)本家の独NSU社が「Ro80」を発売したので、そのREを試験評価する仕事が舞い込んだ。驚いたことに、Ro80のREはマツダのREと比べて低速から高速までトルクも出力も15%ぐらい高かった。

東洋工業初級社員時代
RE実験場で撮影

 試験評価を繰り返すだけの仕事に飽き飽きしていた私は、Ro80の高性能の理由を解析したいと上司の主任に申し出て、許可を得た。解析の手法は、マツダのREの部品をRo80に組み付けることによって性能差を調べるというものである。

 Ro80の性能が高い理由は、(1)鋼製3分割アペックスシール、(2)熱変形が少ないトロコイドフォーム、(3)脈動が発生しやすいペリフェラル吸気口の特徴を生かして低速から高速まで体積効率を高める吸排気システム、の3つだった。このことを突き止めた私は、マツダのREも同様の方式を採用するように提案した。

 だが、私の提案は採用されなかった。(1)については、マツダのアペックスシールはカーボン製なので端部が欠けやすく、3分割にするのが難しい。(2)については、熱変形が少ないトロコイドフォームを製造する方法が分からない。(3)については、マツダのREは脈動が少ないサイド吸気口なので脈動利用の体積効率向上は不可能という結論だった。そして、私は再び退屈な日々に戻った。