宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、ロケットや衛星、探査機などの計画の総指揮者のことを、プロジェクト・マネージャー、通称プロマネと呼ぶ。川口淳一郎教授は、開発から帰還までの間、小惑星探査機「はやぶさ」(初代はやぶさ)のプロマネを務めた。

 同「はやぶさ2」のプロマネを務めているのは、初代はやぶさに搭載したイオンエンジン*1を開発した國中均教授だ(図1~3)。同教授は、イオンエンジンを研究する研究室の長であり、大学院教育での指導教官であり、なおかつはやぶさ2計画のプロジェクト・マネージャー。現在、非常に多忙な日々を送っている。

 今回は“イオンエンジンができるまで”と題して、初代はやぶさに搭載されたイオンエンジンの開発経緯をお聞きした。

図1●はやぶさ2のプロジェクト・マネージャーを務める國中均・JAXA宇宙科学研究所教授
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図2●はやぶさにおけるイオンエンジンの点火イメージ(左)とはやぶさ(右)
右のはやぶさの写真の左手前側にイオンエンジンが搭載されている様子が分かる。画像(左右):JAXA
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図3●はやぶさに搭載したイオンエンジンの動作イメージ
日経テクノロジーオンラインが、JAXAの資料を基に作成。
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*1 イオンエンジン イオンを噴いて推進力を得るエンジンのこと。はやぶさのイオンエンジン「μ10」は、マイクロ波放電型イオンエンジンと呼ばれるもの。燃料(推進剤)にキセノンガスを使う。これを放電容器に少しずつ送り、放電容器内にマイクロ波を照射することでキセノンガスを陽イオン化し、同イオンをエンジン外に噴射する。そして、その反動(運動量保存則)により推進力を得る。噴射口の近くに負電極を置くことで、キセノン陽イオンを加速しエンジン外に噴射する仕組みだ。ただ、それだけでは、エンジンが負に帯電してしまう。このため、同エンジンでは、電気的に中和させる中和器も備えている。中和器では、キセノンガスにマイクロ波を照射してキセノンガスから電子を分離、その電子をエンジン外に噴射させる。ちなみに、マイクロ波とは、周波数が300M~3THzの電波を指すが、μ10では4.25GHzのマイクロ波を用いている。