ICの設計技術に関連した国際学会/展示会であるDesign Automation Conference(略称DAC)。51回目のDACが2014年6月1日~5日に米国のサンフランシスコで開催された(日経テクノロジーオンライン関連ページ)。デジタル家電用ICを日本の半導体メーカーや機器メーカーが盛んに開発したころには、日本からも多数のエンジニアがDACに来場していた。

 当時はアジアのIC設計者の代表と言えば、日本メーカーだった。例えば、EDAベンダーがDACに併催する形で開くユーザー講演会。米国、欧州、アジアからそれぞれ1社の設計者がユーザー講演することは多い。アジアのユーザーは、大抵、日本企業だった。しかし、数年前から、アジアの代表の座は韓国Samsung Electronicsが占めるようになっている。51st DACでも、そうした場面に何回か出くわした。

 Samsungは、今年のDACでは、展示会でもかなり目立っていた。同社は2011年から、製造受託のファウンドリーとして、DACの展示会でブースを構えている。今年の展示の目玉は、14nmのFinFETプロセスである(日経テクノロジーオンライン関連記事1)。このプロセスは競合の米GLOBALFOUNDRIES社にライセンスされており、Samsungの技術力をアピールする格好のトピックとなっている。

 ライセンス先のGLOBALFOUNDRIESや、大手の一角を占める台湾UMCがブースを構えていないこともあり、Samsungは台湾TSMCと並んで、51st DACの展示会ではファウンドリーとして幅を利かせていた。TSMCがアピールしているのは、Samsungよりも一足先に開始した16nmのFinFETプロセスである(日経テクノロジーオンライン関連記事2)。

 51st DACの展示会では紹介がなかったが、もう1社、FinFETでファウンドリ事業を行う企業がある。米Intel社だ。同社は2013年11月の投資家向け説明会でファウンドリ事業を積極的にてがけることを発表している(日経テクノロジーオンライン関連記事3)。14nm FinFETプロセスでの製造受託を米Altera社のFPGA向けに行うことが2013年2月に発表されているが(同関連記事4)、今回のDACに合わせて一般向けにも14nm FinFETの製造受託を開始することが明らかになった。米Synopsys社、米Cadence Design Systems社、米Mentor Graphics社という大手EDAベンダー3社が、Intelの14nm FinFETプロセスで作るICの設計ツールを整えたと発表した。

 TSMC、Samsung/GLOBALFOUNDRIES、Intelと製造受託先の選択肢が増えたことで、22nm世代のマイクロプロセサで実用化したFinFETが、ASIC(カスタムIC)の世界にもやってきた。51st DACでは米ARM社のRob Aitken氏(ARM Fellow)がASICユーザーの視点でFinFETを評価した結果を発表している(日経テクノロジーオンライン関連記事5)。英ARM社のプロセッサーコアを、28nmプロセスおよび14/16FinFETプロセスを前提にして論理合成してみた。28nmの高性能プロセスよりも14/16FinFETの低電力プロセスの方が動作周波数が高いなど、FinFETの効果は確かにあるという内容の発表だった。

 ただし、14/16FinFETプロセスで作るASICが一気に普及するかというと、そういうわけでもない。先端プロセスが枯れたプロセスよりもコストが高いことは当たり前だが、14/16FinFETは微細化しただけでなく、トランジスタがプレーナー型から構造が変わった上に、露光工程でマルチパターニングを行う必要がある。

 プレーナー型トランジスタでマルチパターニングが不要な最後のプロセスノードが28nm。「28nmはコスト最小のプロセスと言ってもいいだろう。当面、多くのASICは28nmプロセスで作られる。高性能が必要な一部のチップが14/16FinFETプロセスで製造されるだろう」( Aitken氏)。