前回まで
技術コンサルタントの川口盛之助さん、そして日経BP未来研究所 所長の仲森と記者の3人は、「白金夕暮れ団」という開発チームを立ち上げた。川口さんが密かにつくっているスイッチを使った手慰み装置を商品化するためである。まずは商品コンセプトを固めるため、夕暮れ団の一行は渋る川口さんの尻を叩きながら、数々の優れたプロジェクトを成功に導いてきた企画の達人、久保田達也(くぼたつ)さんに相談すべく事務所を訪れたのであった…。

出てくる、出てくる

「これはクセになるかも」

 くぼたつさんが、川口さんの試作スイッチをカチャカチャといじり始めた瞬間、川口さんの目が光ったように見えた。すると、次の刹那、再び川口さんの手はカバンの中に。

「それは、タイで買ったスイッチなんですよ。スイッチを押した感じが少し重いでしょ。実はね、ほかにもあるんです。こっちはね、値段が高い国産スイッチを使った同じタイプ。さっきのがカローラだとすると、国産のやつはクラウンという感じ。それで、またの別のバージョンがあって…」

 川口さんはカバンから箱を取り出した。出てくる、出てくる。そこから、いろいろな形の試作スイッチが。

出てきた試作スイッチの数々

「こんなにつくってたんですか、川口さん」
「そうだよ」

 川口さんはさも当たり前のようにドヤ顔で答えると、一つひとつの試作品について説明を始めた。次第に舌は滑らかになり、絶好調になっていく。

「これは、この穴に指を入れて、スイッチを手の中でくるくる回せるタイプです。男子ってさ、映画とかでピストルをくるくる回したり、ジッポーのライターをいじったりする姿に憧れるじゃない。それを組み合わせた感じですね。あとね…」

 このほかにも、指輪の中にトラックボールのようなものをしこんでクリクリといじれるタイプや、歩数計を仕込んで回転させた回数を数えられるタイプ、全くスイッチとは関係ないスマホを手の中で回すためのケースなど、とにかく様々な形状の試作品がテーブルの上に並んだ。一つひとつの試作品を丁寧に触りながら、くぼたつさんはうれしそうに隣の部屋に声を掛けた。

「ねえねえ、これ面白いよ!来てごらん!」

 くぼたつさんの事務所の女性スタッフが二人、会議室に顔を出した。

「何ですか、これ?」