日経エレクトロニクス2014年6月9日号の特集「LED照明、第2幕」では、照明用の白色LEDの最近の動向をまとめています。取材をしながら感じたのは、20年近く続いた白色LEDの基本構成が大きな節目を迎えている点でした。

 白色LEDの基本構成とは、サファイア基板の上にGaN結晶を成長させて作製した青色発光のLEDと、YAGに代表される黄色蛍光体を組み合わせて白色光を作り出す構成です。この基本構成を開発したのは日亜化学工業です。サファイアのウエハーなどは、既に中国企業など海外勢に席巻されていますが、ことチップ市場に関しては日亜化学工業は現在でも、第2位のメーカーの2倍以上のシェアを保ち、断トツトップを走っています。

 日亜化学工業の白色LEDについての評価は概ね非常に高いです。「他のチップメーカーより2年は研究開発が進んでいる」(あるLEDパッケージメーカー)と絶賛する声も珍しくありません。他の分野では、当初高い市場シェアを握っていても海外勢に次第にシェアを奪われ、シェアを落としていく日本メーカーが後を絶たないなか、日亜化学工業だけは世界一の座を守り続けています。

 ただし、あまり長く一人勝ちを続けていると、そのままでは勝ち目がない競争相手の中にはゲームのルールを変えようとする者が出てくるのが世の常。実際、LED照明の分野でも、「青色LEDと黄色蛍光体」という基本構成にこだわらなければ、実は他にやり方があるんだと気が付き、現在の白色LEDの市場をその別の技術で塗り替えようとするメーカーが複数登場しています。

 詳細は特集記事をご覧いただきたいですが、いずれも必ずしも新しい技術ではありません。かつては今の白色LEDに発光性能の競争やコスト競争、そして市場開拓競争で敗れ去った技術が多いのです。それでも、時が経つにつれて弱点が改善されたり、あるいは弱点を逆手に取って新しい付加価値に変えたりといった技術的工夫により、再び今の白色LEDの有力な対抗馬として台頭してきました。

 特に、そのうちの少なくとも一つは最近になって「LED照明の市場で破壊的イノベーションになるかも」とアナリストなどが注目し始めました。それは、シリコン(Si)基板上にGaN結晶を形成する「GaN on Si技術」。実用化競争で筆頭を走っているのは東芝です。

 取材で他のメーカーに話を聞くと、いまだに「あれ(GaN on Si)はウエハーが割れるし、とても使えない技術」などという烙印を押されているようなのです。ただし、仮にそうした課題が解決されれば、巨大なインパクトを持つことは烙印を押した技術者も認めるところです。

 東芝の技術は、GaN on Si技術のポテンシャルを十分に引き出すにはもう一段のブレークスルーが必要な段階にあります。ただし、現状の技術でも既存の白色LED市場を脅かす力は持っていると取材では感じました。

液晶ディスプレー向けでは量子ドットの「竜巻」が猛威

 ちなみに、照明という枠を超えて、液晶ディスプレーのバックライト用途に注目すると、白色LEDには既に別の破壊的イノベーションが猛威を振るいつつあります。

 それは半導体の微粒子である量子ドット。2013年の「SID 2013」ではまだ有望な技術の一つという位置付けでしたが、その後、あたかも竜巻のように急成長。現在取材中のディスプレー技術の国際学会「SID 2014」では、「量子ドット祭り」といってよいほど、多くの液晶ディスプレーメーカーが量子ドットを従来の黄色蛍光体の代わりに採用し始めました。バックライトを青色LEDと量子ドットの組み合わせにすると、ディスプレーの色再現性が格段に向上するためです。その差は素人目にもはっきり分かるほどで、近い将来、量子ドットなしで液晶ディスプレーの新製品を出すのは難しくなる可能性が高いといえます。

 現時点では、量子ドットはまだ黄色蛍光体の代替品で、しかも液晶ディスプレーが主な適用分野ですが、それだけでは終わりそうにありません。実際、量子ドットシートを開発する米Dow Chemical Companyは「まずは市場がそこにある液晶ディスプレー向けを狙うが、一般照明への応用にも興味がある」と述べています。

 加えて、青色LEDに頼らず、量子ドットをLEDのGaNの代わりに用いる技術や、有機ELの発光層の代わりに用いる技術の開発も始まっています。これらの技術はまだ発展途上ですが、性能が向上してくれば、既存のディスプレー技術や照明技術を大きく塗り替える可能性も否定できません。