半導体の技術と業界の今と未来を、さまざまな視座にいる識者が論じる「SCR大喜利」。今回のテーマは「ファウンドリー主導で決まる半導体業界の未来」である。

 今回のSCR大喜利では、さまざまな半導体メーカーが外部ファウンドリーの利用やファウンドリーサービスの提供を始め、そしてファウンドリー専業企業の存在感が大きくなっていく先に、どのような半導体産業の姿があるのか、見通すことを目的としている。今回の回答者は、アドバンスト・リサーチ・ジャパンの石野雅彦氏である。

石野 雅彦(いしの まさひこ)
アドバンスト・リサーチ・ジャパン マネージング・ディレクター シニア・アナリスト
 山一証券経済研究所企業調査部、日本興業銀行産業調査部、三菱UFJモルガン・スタンレー証券エクイティリサーチ部を経て、アドバンスト・リサーチ・ジャパンでアナリスト業務を担う。その間一貫して、半導体、電子産業を対象にした調査・分析に従事している。

【質問1】将来、事業形態としてのIDMは消滅し、半導体産業はファウンドリーとファブレスに完全分業する方向に向かうのでしょうか?
【回答】 新しいモデルが創造されている

【質問2】微細化や大口径化を進めていく上で、各ファウンドリーのプロセスは、独自性を保つべきでしょうか、それとも共通化を目指すべきでしょうか?
【回答】 共通化と独自性が混在する

【質問3】半導体業界のプロセスが一本化し、世界標準プロセスが生まれる可能性があると思われますか?
【回答】 標準的なプロセスは作られるが、差異化は避けられない

【質問1の回答】新しいモデルが創造されている

 IDMはファウンドリー、ファブレスの機能を強化している。一方で、ファウンドリー、ファブレスはIDMの機能を取り込み始めた。

 既に、東芝、ルネサス エレクトロニクスは、独自の新モデルに移行し、成果を上げている。まず、東芝は、米SanDisk社と共同で、NANDフラッシュメモリー事業を展開し、成功している(図1)。フラッシュパートナーズ(Fab3)、フラッシュアライアンス(Fab4)、フラッシュフォワード合同会社(Fab5)に、東芝が50.1%、SanDisk社が49.9%出資し、それらにNANDフラッシュメモリーの製造を委託している。

図1

 東芝とSanDiskグループは、NAND生産能力が月産48万枚(300mmウエハー)であるため、韓国Samsung Electronics社の月産28万枚(西安工場を除く)と比較すると、スケールメリットによる収益性の差が出ている。NAND事業の営業利益率を2014年1~3月期で比較すると、東芝28%、Samsung社18%、韓国SK Hynix社-4%と、協業が奏効し、高い収益性を誇っている。東芝のメモリー事業の2014年3月期営業利益は2260億円、SanDisk社の2013年12月期営業利益は16億4500万米ドルと、2社合計で約4000億円の利益を上げている。

 一方、ルネサス エレクトロニクスは、構造改革の成果と自動車産業向け半導体の好調で2014年3月期営業利益が676億円と2013年3月期232億円の損失から大幅に改善している。同社のウエハー・キャパシティは、月産39万枚(200mmウエハー換算)であるが、依然稼働率が65%と低いことから、まず同33万枚に縮小させ、中期的には現状の受注高でもフル稼働になる同25万枚にすると見られる。売上高に占めるファウンドリーの貢献度は、現在は20%だが、中期的に30%以上に増やす。構造改革の進展で1人当たりの売上高は、米Texas Instrumentsと同等になるほど改善している。ただし、従業員の日本比率が70%を超えているため、海外比率を高める方向に向けている。同社は、IDM、ファウンドリーとファブレスとの収益性を意識しながら、独自のモデルを構築しつつある。