半導体の技術と業界の今と未来を、さまざまな視座にいる識者が論じる「SCR大喜利」。今回のテーマは「ファウンドリー主導で決まる半導体業界の未来」である。
今回のSCR大喜利では、さまざまな半導体メーカーが外部ファウンドリーの利用やファウンドリーサービスの提供を始め、そしてファウンドリー専業企業の存在感が大きくなっていく先に、どのような半導体産業の姿があるのか、見通すことを目的としている。今回の回答者は、服部コンサルティング インターナショナルの服部毅氏である。
服部コンサルティング インターナショナル 代表
【質問1の回答】分業の方向ではあるが、有力なIDMは消滅せず、完全分業はしない
微細化のための、あるいは大口径化のための設備投資が高騰し、その負担に耐えかねるいくつものIDMがファブライトや、さらにはファブレスに事業形態を変えてきた。しかし、独自のプロセスで圧倒的な競争力をだせるデバイスをもっているIDMは、独自のプロセスを門外不出としてIDMにとどまるだろう。
日本では、IDMは時代遅れと位置付け、右にならえでファブライトさらにはファブレス化を進める動きが2000年代半ばから顕在化してきた。しかし、ファブライトはやがて時間が経過すれば閉鎖あるいはレタス工場になる運命だ。特に日本のファブレスは、顧客の言われるとおりにプログラムを組み、RTL出力するだけの労働集約型デザインハウスでしかない可能性が高い。ファブレスになったら生き残れると考えているのならば、幻想だ。ファブレスには、未来を見据えた卓越した商品企画力とグローバルな規模のマーケティング力が必須だから、これらの有無が問われている。
ちまたで議論されているファブレス・ファウンドリー・モデルというものは、四半世紀も昔のTSMC発足直後の製造下請けモデルである。同社は過去に10数回にわたりビジネスモデルを変えてきており(参考文献1参照)、ファブレス・ファウンドリーがあたかもIDMのごとく密接に協業する仮想垂直統合モデルを経て、IPベンダー、EDAツール・プロバイダー、デザインハウス、ソフトウエア・ハウス、実装・テストハウス、装置・材料メーカーなどエコシステム全体が一体となって緊密に協業する体制へと移行している(参考文献2参照)。類似の概念を米GLOBALFOUNDRIES社では、“Foundry 2.0”と呼び、台湾UMCでは“IDM+(プラス)”と呼んでいる。
微細化が進み、プロセスが複雑化し、デバイス構造も使用材料も革命的に変化する時代には、IDMのようにシステム、回路、デバイス、プロセス、設計と製造が一体となって協業しなければ超微細デバイスをつくれないと米Intel社は主張し、既存ファウンドリーをけん制している。米国の複数の大手IT企業が、一時はIDM化を真剣に検討していたほどだ。
日本のIDMの多くがうまくいかないのは、IDMだからというよりは、IDMの利点である、セット、システム、設計、製造など各部門が一体化できることを生かせるように機能できていないからだ(参考文献3参照)。親会社から分離独立した富士通セミコンダクターは、分離当時のトップが「これまで、富士通と社内の半導体部門は必ずしもうまく連携できていなかった。分社化することで、富士通本体とのシナジー効果が高まった」と述べている。設計と製造の間でも同様だろう。各部門の縄張り意識が強く、成果報酬の奪い合いを社内でやっている日本のIDMよりは、ファブレス・ファウンドリーの方が連携がはるかに親密でwin-winの関係を構築できる。それをDFM(design for manufacturability)はじめさまざまな仕組みが後押しして、IDMのメリットを弱め、消し去る方向だ。