ディスプレーは四角くて、枠があって、平面――。このような常識を覆す表示技術について特集してから1年近くがたちました(この特集記事は現在、日経テクノロジーオンラインで期間限定無料公開中です<第1部><第2部><第3部>)。この間、さまざまな新技術や新製品が相次いで発表されました。

 2014年1月の「International CES」では、壁や天井をディスプレーに変える「Life space UX」をソニーが発表し、注目を集めました。超短焦点プロジェクション技術を応用したもので、最大147型の4K映像を壁などに投影可能。同社は、2014年夏に米国で約3万~4万米ドルで発売する予定です(関連記事)。

 1月の終わりには、ナノテクノロジーの総合展「nano tech 2014」で富士フイルムが、窓ガラスに映像を表示できる技術を披露しました。同社が開発した有機フィルムを応用するもので、窓ガラスを透明なままプロジェクターのスクリーンに変えることができます。自動車の窓ガラスに貼ることで、ヘッドアップディスプレー(HUD)用に利用することも可能です(関連記事)。

 2月には、パナソニックが照明と映像を融合して、新たな空間演出を実現する「Space Player」を発表しました。照明を当てるように、テーブル面や壁面などあらゆる面に映像を映し出すことができるものです。同社はこのSpace Playerを、7月1日に発売する計画です(関連記事)。

 5月には、東京大学 教授の石川正俊氏らの研究グループと米zSpace社が、3次元(3D)ディスプレーに表示した仮想物体を手でつかむようにして操作できるシステムを共同開発しました(関連記事)。石川教授らは、「AIRR Tablet」と呼ぶ、投射型ディスプレー技術で実現した“空中映像”を手で操作できるシステムも開発しています(パナソニックと石川教授は2014年6月18日開催のセミナー「どこでもディスプレー」で講演予定です)。

 このように、“フラットを超える”ディスプレーの最近の開発では、プロジェクション技術の応用が目立ちます。筆者が特に注目しているのは、わざわざスクリーンを用意しなくても映像を楽しめるようになってきたことです。これによって、プロジェクション技術に新たな魅力が加わったと考えています。

 それは、映像を消すと、そこには“何もなくなる”ことです。壁や天井に映していた映像を消すと、元々の壁や天井に一瞬で戻ります。窓に映していた映像を消すと、そこには窓が元通りにあるだけ。壁や天井は窓は存在するので“何もない”わけではないのですが、映像表示のための物体の姿はそこには見えません。これまでの直視型の液晶ディスプレーなどでは、なかなか実現が難しかったことです。

 “未来の世界”として昔からよく描かれていた、映像を見たいときに突然現れて、見終わったら都合よく消えてなくなるディスプレー。これが、プロジェクション技術によって実現できるようになってきたといえます。この技術のさらなる進化に大いに注目しています。