生き物の優れた仕組みや構造、機能を新たな技術開発に活用する取り組みが活発だ。例えばシャープは、2013年12月に発売したヘアドライヤーのファンに、アマツバメの翼の構造を取り入れた。ファンがつくり出す風圧や風速を向上させることが目的である。

 同社は白物家電を中心に、「ネイチャーテクノロジー」と呼んで自然界の現象からヒントを得た技術を積極的に活用している。2014年2月時点で製品数は累計22品目に上る。

 いわゆる「生物模倣」(Biomimetics、Biomimicry)と呼ばれる分野の取り組みだ。ここにきて、センサーやロボット、エネルギーなどの技術分野でも、この視点を取り入れた研究開発が活発になりつつある。

ホウセンカの葉の配置を模倣した、太陽電池搭載の街灯。ホウセンカの葉に見立てた複数枚の太陽電池パネルで昼間に充電し、暗くなると眼のようなライトが光る。ホウセンカでは効率よく光合成を行えるように、上の葉は下の葉に重ならないように生えて、どの葉もなるべく多くの太陽光を受光できるようになっている。これを太陽電池パネルの配置に応用した、NPO法人「アスクネイチャー・ジャパン」と立命館大学などの共同研究成果。写真は、滋賀銀行本店の駐車場に設置されたもの。(写真:日経エレクトロニクス)
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 『日経エレクトロニクス』は、エレクトロニクス分野で広がる生き物の機能活用や新しい視点の獲得を「生物エレクトロニクス」と呼んだ。エレクトロニクス技術と生物の機能性を融合させて、ブレークスルーを生み出そうという考え方だ。(同誌、2014年4月14日号特集「生物エレクトロニクスの誕生」)

 例えば、最近では、微細な凹凸パターンを彫り込んだ判型を樹脂などに押し付けてパターンを転写するナノインプリントという技術が関心を集めている。2014年2月にキヤノンが、同技術を基にした半導体製造技術の開発ベンチャー、米Molecular Imprints社(MII)の買収を発表した。

 MIIは、ナノインプリント技術で半導体ウエハーにレジストを微細加工する技術を持つ。まずは、NANDフラッシュメモリーの製造に使われる可能性があるという。(同誌、2014年3月31日号「半導体製造で逆転狙うキヤノン、ナノインプリントを実用化へ」)

 ナノインプリント技術の有力な用途は、生物模倣である。最近、液晶ディスプレーの反射防止用パネルに使われている「モスアイ(蛾の目)」という構造は好例だ。蛾の目の表面にある凹凸をナノインプリント技術で再現した構造で、光の反射を低減する。シャープが大型液晶テレビで採用している技術だ。ハスの葉の撥水性の高さや、セミやトンボの羽根の表面構造にある抗菌・殺菌効果にも関心が集まっている。(同誌、2014年3月17日号「ナノインプリントに新風、大面積化で用途も拡大」)

 生物模倣の歴史は古い。生物が進化の過程で獲得した効率性の高さや、最適化された機能を工業的に活用しようという取り組みは以前からあった。例えば、シャープでは、高速遊泳するイルカの尾ひれや表皮のしわの構造を洗濯機のパルセーターに活用し、洗浄力の向上や洗浄ムラの低減を実現している。このほかにも、鮫肌の構造を模倣した水着のような商品、コウモリの反響低位を模倣したソナーなどがある。生物の脳の仕組みを模したニューラルネットワークの研究開発も、こうした流れの一つだろう。