“金の卵”は、人間には金にしか見えない。でも金の卵を産んだ鶏には、卵にしか見えない。

 同様に、技術者が属する会社にとって、自社で開発された技術は、紛れもない財産である。しかし、技術を開発した当事者である技術者にとって、開発した技術は、行く末を案じてしまう子どものような存在に感じるようだ。技術漏えい、特に開発者自身が情報を外に持ち出してしまう事件が起きる背景には、対策を講じる側と技術を生み出す側のこのような感覚の差があるのではないか。理屈を超えた、感情が関わっているところに、この問題の難しさがある。

機密情報が漏えいする深層を探る

 今回のSCR大喜利は、「機密情報の漏えいを防ぐことは可能か」をテーマにして意見を募った。このテーマを選定した動機は、2014年3月に明るみになった、東芝の半導体メモリーに関する情報漏えい事件である。5月には、日産自動車の元社員が営業秘密情報を持ち出したとして逮捕されるという事件も発生した。こうした機密情報の漏えい事件は過去にもあった。また、細かなノウハウなどの技術流出は、過去にもかなり頻繁に起こってきたと言われている。

 東芝や日産の事件は、企業が保有するデータの持ち出しという、弁解の余地のない形で起こった。検証しやすい犯罪である。しかし、技術者の頭の中にある機密情報が流出したとしても、立件することは困難だとも言う。今回のテーマでは、コンサルタント、アナリスト、半導体メーカーの元技術者、元経営者に、特定の事件の背景を論じるのではなく、日本の半導体関連の企業や技術者が置かれている現状を鑑みたうえでの、機密情報の取り扱いのあり方を論じていただいた。各回答者には以下の三つの質問を投げかけた。

【質問1】そもそも機密情報の漏えいを防ぐことは可能なのか?

【質問2】機密情報の漏えいが起きる主因は、漏らす個人の資質か、構造的な問題か?

【質問3】機密情報の漏えいを防ぐために、企業はどのような努力をすべきか?

 回答者は以下の通り。

多喜義彦氏
システム・インテグレーション 代表取締役社長
「何が機密情報であるのか、明確に意識させることが先決」参照

大山 聡氏
IHSグローバル Technology 主席アナリスト
「根治を目指すには、保有技術の有効活用による士気喚起が必須」参照

田口眞男氏
慶應義塾大学 特任教授
「技術者は開発した技術に自己帰属意識を持つ、それでも漏えいしない仕組みを」参照

湯之上 隆氏
微細加工研究所 所長
「個人も企業も緩い日本、“知恵と情報はタダではない”ことを徹底せよ」参照

北原 洋明氏
テック・アンド・ビズ 代表取締役
「市場拡大期、協業や分業で後発企業を積極的に取り込むべき」参照

表1●回答のまとめ
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