南シナ海で中国が石油掘削を始めたことに抗議して、ベトナムで反中デモが拡大、同国中部にあるハティン省や南部の地域では2014年5月13日以降、暴徒化したデモ隊が現地に進出している中国系企業の他、台湾系、日系企業など外資系の工場を襲撃し、死傷者が出る事態となっている。

 当コラムがテーマとするEMS(電子機器受託製造サービス)/ODM(Original Design Manufacturer)業者でもベトナムに生産拠点を構えているところはある。例えば、EMS世界最大手の台湾Hon Hai Precision Industry社〔鴻海精密工業、通称:Foxconn(フォックスコン)〕は、北部のバクザン省とバクニン省に工場を擁する。うち、バクザン省の拠点は、米Apple社が発表している2014年のサプライヤーズリストに掲載されていることから、Apple製品関連の生産を行っていることが分かっている。フォックスコンはハティン省で暴動が発生した翌日の5月14日、同社のベトナム拠点には何ら影響が出ていないとする声明を発表している。

 ただ、EMS/ODMに部材や製品を納めるエレクトロニクス関連企業の中には、ベトナムの反中デモや暴動の影響を受けている企業が出始めているようだ。パソコン(PC)用マザーボードの台湾Asrock社(華擎)もそのうちの1つ。同社は2014年5月14日に発表した声明で、マザーボードの生産を委託している工場はハティン省にあり、暴動の影響で5月14日から生産を停止していて、工場にどれだけの被害が出ているかについてもまだ分からないと表明。在庫は十分にあるが、やはり生産を委託している中国に対する発注比率の引き上げを検討するとしている。

 5月15日付の台湾各紙が伝えたところによると、Asrock社はマザーボードの全量を生産委託している。うち30~50%をベトナム、50~70%を中国広東省深センの工場に発注しているという。ただ台湾メディアの質問に答えた同社の関係者は、中国に対する発注拡大はあくまで一時的なもので、事態が沈静化すれば、ベトナムを生産委託の主力とする方針に変更はないと強調している。なぜなら、深センで人件費をはじめとする労働コストが高騰したことを受けて、生産の主力をベトナムにシフトしたという経緯があるためだ。台湾の経済紙『工商時報』(2014年5月15日付)に対しAsrock社の関係者は、「ベトナムと中国の賃金水準は大きく違う。ベトナムに移したことで、コストの上で大きな削減効果が出ている」と強調している。