お金よりもお客様優先

 開発とは、お客様に嬉しくなって欲しいと思う気持ちがなければできるわけはない。「きっと喜んでくれる」。もしくは、お客様の嬉しそうな顔を想像しながら進めるのが開発だ。それは、事業や商品を広告宣伝するテレビ番組の広告を見れば分かる。出演者が笑っているではないか。事業や商品を購入した客は嬉しそうに笑う、そのことを伝えているのである。

 しかし、開発とは、所詮ビジネスだ。それは事実だが、売り上げや利益が、目の前にちらつくようでは本当の開発はできない。金のことを考えながら、開発はできないのだが、多くの者が最初に金のことをとにかく言う。「この事業でどれだけ儲かるのか、この商品はどれだけのコストでできるるのか」と…。つまり、一番気になるのは金で、それだけ金が欲しいのだ。

 よく考えれば分かるが、金が欲しいのは自分の欲で、言い換えれば、そこにお客様はいない。金のことを考えながら、お客様を嬉しくするなんて、できるわけがない。まして、自分だけが儲けるために、下請けに安く作らせて利幅を多くしようと考える者は、お客様を気にするわけがないのだ。

 一方、お客様を嬉しくさせる気持ちには、金のことは関係ない。どうしたらお客様は嬉しくなるのだろうか、それが最優先だ。お客様が嬉しい気持ちになれば、結果、事業も上手く行き、商品も売れて、回りまわって、自分も嬉しくなる。これが開発に最も必要なモチベーションだ。そしてこの気持ちが、嬉しい、嬉しくなろうという甲斐につながる。

 仮に、金を払うお客様に対して、お金のことを言ったらどうなるだろう。それは、安くするしかない。安くするのは甲斐ではない。だってそうだろう、「コスト甲斐」なんてあり得ない。繰り返すが、金や数字は甲斐ではない。もっと言えば、甲斐性なしとは、経済的な生活能力がない者を指すが、コストを安くしようという考え方は、大げさに言えば、甲斐性なしではなかろうか。

 嬉しくなって欲しい、嬉しくしよう、嬉しくなりたい、それが甲斐なのだ。だから、開発には甲斐が必要だ。考えるのも、作るのも、やり甲斐があれば前向きになれる。

 開発の現場で、私は開発マンの顔を見れば、その人の甲斐性が分かる。楽しそうに、前向きに開発に取り組んでいる人は、皆、同じようなタイプの人だ。お客様のことを最優先に考える人は、実は周囲への気配りもできる人が多い。周囲の人が開発に向かう気持ち、つまりモチベーションを上げるために注意を払う。

イラスト:ニシハラダイタロウ
イラスト:ニシハラダイタロウ
[画像のクリックで拡大表示]

 そのような人は、いつもニコニコしている。辛いだろうと察しても、困難を笑い飛ばして開発に向き合っている。しかも、あまりお金の話をしない。上手く行けば、事業が展開し、商品も売れるのだから、結果としてお金は付いてくる。だから、金の話をしなくても大丈夫だと気にしない。金よりもお客様優先の開発マンは皆、やり甲斐優先なのだ。

 さあ、開発をしたいのなら、そこに、やり甲斐があるのかないのかを見極めよう。どんなに金をもらっても、どんなに儲かるとしても、やり甲斐が見えないのなら、絶対に開発は上手く行かないのだ。そっと胸に手を当てて、「やり甲斐はあるのかい?」と尋ねよう。

 あなたに正直な気持ちが有れば、すぐに答えてくれるはずだ。「やり甲斐はあるさ」と…。

開発の鉄人”ことシステム・インテグレーション 代表取締役の多喜義彦氏は、これまでに3000件の開発テーマの支援に携わり、現在も40社以上の技術顧問などを務めている(システム・インテグレーションの詳細はこちら)。「リアル開発会議」では、多喜氏を指南役に、オープンイノベーション型の新事業開発プロジェクトを開始する(詳細はこちら)。