半導体の技術と業界の今と未来を、様々な視座にいる識者が論じる「SCR大喜利」、今回のテーマである「今、改めて問い直す450mmウエハーの存在意義」、第4回の回答者は、IHSグローバル Technologyの南川 明氏である。以下のような、他の回答者と同じ3つの質問を投げかけた。
IHSグローバル Technology 日本オフィス代表 主席アナリスト
1982年からモトローラ/HongKong Motorola Marketing specialistに勤務後、1990年ガートナー ジャパン データクエストに移籍、半導体産業分析部のシニアアナリストとして活躍。その後、IDC Japan、WestLB証券会社、クレディーリヨネ証券会社にて、一貫して半導体産業や電子産業の分析に従事してきた。2004年には独立調査会社のデータガレージを設立、2006年に米iSuppli社と合併、2010年のIHSグローバル社との合併に伴って現職。JEITAでは10年以上に渡り,世界の電子機器と半導体中長期展望委員会の中心アナリストとして従事する。定期的に台湾主催の半導体シンポジウムで講演を行うなど、アジアでの調査・コンサルティングを強化してきた。
【質問1の回答】感じない
(1)450mm化を本当に必要とする製品が少なくなっている。これまでウエハー口径拡大を牽引してきたのはマイクロプロセッサーとメモリーだった。しかし、450mm化を必要としている製品はマイクロプロセッサーだけになってきている。
(2)経済的効果が見えない。図1は過去の200mm、300mmの時と450mmとの比較を示している。ウエハー面積は大口径になると2.25倍になってきたが、参入企業数は減少している。それに伴い量産機が出荷されてから10年で建設されたライン数も240ラインから160ライン、そして450mmでは最大50ライン程度になると予測している。これまで大口径ウエハーを必要としてきたDRAMが450mmを使わなくなり、NANDフラッシュメモリーもしばらくは様子見をすると見ている。スループットも1時間当たり50枚ではユーザーの理解は得られないと思われる。
これらの前提で試算すると、それぞれの市場規模は200mmを1とすると300mmでは0.96~1.04となりほぼ同規模だった。これに対し、450mmでは0.26となり、1/4の市場規模に縮小すると試算される。これで利益を出すことを考えなければならないため、多くの装置メーカーが参入できる市場ではないと考えられる。
450mm化は、一部の半導体メーカーにとっては価値があり戦略上必要な技術であることは間違いないだろう。特に300mmでギガファブを持っている企業にとっては、工場への投資だけでなく、従業員の人数が450mmにした方が高効率になる。このため直接費用の削減にもつながるというメリットが大きいだろう。しかし、裏を返せば300mmを1ラインしか持たない企業にとっては、そのメリットも受けることができないため、ROIを考えると踏み切れないというのが現実であろう。
450mm化は、チップコスト削減の一手段として、2018年ごろから一部メーカーで量産ラインの稼働が始まるだろう。しかし、多くの半導体メーカーにとって450mmは、先行メーカーの成功を見極めてからの参入となりそうである。そして、装置メーカーとしては開発タイミングの最適化と装置のスタンダード化、共同開発などあらゆる手段を使って開発投資の効率化を図り、もうかるようにすることが必要だと思われる。