多喜義彦氏は、「開発の鉄人」として著名な開発コンサルタントだ。これまでに3000件の開発テーマの支援に携わり、現在も40社以上の技術顧問などを務めている。そのスタイルは独特だ。企業の開発現場に自ら足を運び、技術をいかに活用し、応用開発につなげるかを助言する。思いもよらぬ発想で新たなビジネスモデルの創出を担う人物である。

 新規事業の開発請負人である同氏は、「駄目だったらやめればいい」と失敗を恐れずに挑戦を繰り返すことの意義を説く。そのための発想力を磨くカギは、アイデアを社外とのコラボレーション(共同作業)に求めることにあると見ている。(リアル開発会議)

 「それって前例がないということですよね」─。

 新しい商品の開発を進める際に、かなりの頻度で聞く発言である。私からすると「前例があってたまるか」と思う。なぜなら、新規開発は、文字通り新しいことに挑戦する取り組みだからである。誰かの後追いをしても意味がない。

多喜義彦氏。システム・インテグレーション 代表取締役社長(写真:加藤 康)
多喜義彦氏。システム・インテグレーション 代表取締役社長(写真:加藤 康)
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 後追いでも勝てるかもしれないが、ほとんどの場合、最終的にはコスト勝負に陥ってしまう。商品の特徴や性能が同じならば、先行者よりも安くすれば売れる。しかし、それを見たライバルは、さらに安い価格で対抗してくる。互いに価格を下げていくことになり、結局は誰も儲からないという不毛な戦いが待ち構えている。新しいことを真っ先に始めるからこそ、自分で価格を決めることができるのだ。これが他社と比較されない売れる商品を生み出す要諦であることを肝に銘じて欲しい。

 新規開発では、不安や躊躇といった後ろ向きの気分がつきまといがちだ。こうした雰囲気が漂う開発現場では、「やってみて駄目だったらやめましょう」とアドバイスすることにしている。ところが、「そんなのは無責任じゃないか」と怒る人が出てくる。これが大きな間違いである。開発プロジェクトでは、駄目だと分かったときに取り組みをストップする判断が実は非常に重要だからである。

 本当の失敗というのは、駄目だと知りながらやり続けてしまうことを指す。「うまくいきそうもない」と私が感じるプロジェクトは、開発者たちもたいてい「駄目だ」と気が付いている。だが、さまざまなしがらみの中でやめることができずにいる。