MTシステムは、複雑な機器や設備などの状態(正常/異常)を単一の指標で表せるようにするパターン認識手法である。近年、機器や設備の故障を事前に予測したい、あるいは寿命を推定したいといったニーズが高まっており、それを正確かつ手軽に実現する手法として注目されている。

 一般に、機器や設備の状態を把握するには、さまざまなデータ(パラメータ)を計測・収集し、それに基づいて正常/異常を判定する。この手法では、機器や設備が複雑になればなるほど関連するパラメータの種類も増えるので、判定も難しくなる。

 MTシステムでは、「マハラノビス距離」(MD)と呼ばれる単一の指標だけで正常/異常を判定できるので、非常に分かりやすい。さらに、一部のパラメータが瞬間的に示した異常値に振り回されることなく、俯瞰的な視点から判定できるのも特徴だ。

単一の指標で全体を俯瞰

 MTシステムは、品質工学(タグチメソッド)から生まれた手法で、多変量解析の一種といえる。対象の機器や設備から計測・収集したパラメータに基づいてマハラノビス距離を算出し、その変化を見るだけで、一般的なしきい値管理よりも正確かつ手軽に機器や設備の状態を把握できる(マハラノビス距離の算出法については関連記事を参照)。

 最近になってMTシステムが注目されてきたのは、機器や設備の故障予測あるいは寿命推定を実現できるからだ。いったん機器や設備が壊れてしまうと、復旧するまでに多大な費用や時間がかかる。可能な限り予兆を事前に捉え、未然に防ぎたい。

 一方、製品や設備はどんどん複雑になっており、膨大なパラメータの挙動を個々に監視するのは限界がある。特にしきい値管理では、基準を厳しく設定すると瞬間的な異常値に敏感に反応してしまい、システム全体では問題がなくても引っ掛かる。とはいえ、基準を緩く設定すれば全体の問題に直結する異常値まで見逃してしまう恐れがある。単一の指標で全体を俯瞰するMTシステムは、このジレンマを解消できるのだ。