新しい事業や商品を開発する際、まず突破しなければならない難関(通過するのが難しい関所)は、実は社内にある。

 本来、開発を進める中で乗り越えなければならない難関とは、顧客のニーズを十分に把握しているか、あるいは、開発に集中できる体制をどのようにして構築するか、にある。だが、それらが重要なのに、全く別の障害が社内に存在していて、そこにほとんどのパワーが注ぎ込まれているのが現状だ。それを私は“内なる消耗戦”と言う。

 さて、内なる消耗戦は、ほとんどが次のパターンである。最前線の開発マンが議論を重ねて決めた開発テーマがあるとしよう。それをウキウキと(自信があるテーマほど楽しく書ける)企画書にして上司に諮る時、その上司はほぼ同じセリフを言うのだ。「俺は聞いていない」と…。

 それは当たり前ではないか。企画書を見せるのは、その時が最初なのだ。それより、上司に訊きたいのは、発案した新事業・新商品の企画書をどう思うかについて教えて欲しいのだ。企画書を見たその上で、「これをどうしよう、これはこうした方がいい」と、前向きのアドバイスが欲しいのである。

 なのに、「俺は聞いていない」とは、一体、何事か。説明しようと提出した企画書をその上司は初めて見るのだから、「聞いていない」のは当たり前だ。こちらが聞きたいのは「内容はどうか」なのだ。聞いていないのなら、今、しっかりと企画書を見よ。そして何かアドバイスはないのか、それが上司としての務めではないか。それなのに、俺は聞いていないとは何事か。聞きたければ最初から開発会議に参加すればよいではないか。

 何と理不尽なことだろう。しかし、それでも上司は上司だ。こちらより早く入社しただけの上司でも、「説明せよ」と命令されれば仕方ない。こちらは開発を進めるのが仕事、使命であるから仕方ない。どのような上司であっても丁寧に説明して納得させるしかない。説明して理解してもらい、一気に走りたいのである。