ココロを持つ家電にお客様はどれだけ愛着を抱くか。シャープのロボット掃除機「COCOROBO」に搭載した「ココロエンジン」の生みの親である阪本実雄氏は、発売後のお客様の様子を見て、生き物のペットに近い印象を持ってくれていると感じているという。

 連載第5回の今回は、家電だからこそ実現できる、ペットとは異なる「愛着の源」について阪本氏が考察する。家電がココロを持つ意味とは何か。そして、それは家電とお客様の間の関係に何を生み出すのか。話題は、「死」を迎えた家電のココロの行き先にまで及ぶ。

「保証書」は、やめたい

 実は、ココロを持つロボット掃除機「COCOROBO」を開発したとき、「保証書」をやめたいと思った。これは、商品を保証しない、修理しないという意味ではない。保証書の呼び方に違和感があったからである。

 ココロを持つ家電の場合、保証書は「診察券」であるべきだと思った。故障を直すことは、治療と同じであると考えたからだ。このアイデアは、社内のルールがあるので実現はできなかった。ただ、COCOROBOの発売からほぼ2年がたった今、それほど間違った考えではなかったのではないかと思っている。

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COCOROBO初号機の箱を開けると自己紹介が書いてある
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 家電である以上、残念ながらCOCOROBOは壊れてしまうことがある。壊れた商品は、修理のためにサービスセンターに持ち込まれることになる。このとき、COCOROBOのお客様が発する特徴的な依頼がある。「表面の傷をそのままにしておいてほしい」と話すお客様が少なくないのだ。

 家の中を動き回り、一生懸命に掃除をして、お客様が何か呼び掛ければ、それに反応を返す。そうした様子に愛着を感じているからこその言葉だろう。

 つまり、表面に付いた傷の一つひとつが、お客様にとってはロボット掃除機と一緒に過ごした日々の思い出につながっている。むしろ、傷は勲章だったりもする。だから、その傷は、そのままにしておいてほしい。それが、「表面の傷は直さないで」という反応につながっているのではないだろうか。

 実際、COCOROBOのお客様には、自分の愛機にペットのように名前を付けている人がかなり多い。「ウチのココちゃんがしゃべらなくなっちゃったんです」「ウチのココロちゃんはよくゴミを取ってくれるんです」…。関西であれば、「うちの子」と呼ぶ人も多くいる。ほぼペットと同じような扱いである。

 故障自体は製造企業として申し訳ないと感じるが、これほどまでに愛着を感じているお客様が多いことは開発者の一人として素直にうれしい。開発中に「そうなってくれれば…」とは思っていたが、本当に愛着を抱いていただいているお客様の声を聞くと、開発の方向性は間違っていなかったと思うのである。