すぐ決める組織に

 新しいことを始める際に大事なことは、実は「独断」である。サラリーマン社長がトップの「サラリーマン会社」では、ベンチャー企業からいい話を持ち込まれた担当者が「検討します」とやる気になっても、担当役員や社長に話を上げていくプロセスに時間がかかり、なかなか結論が出ないことが多い。

 大和ハウス工業もサラリーマン会社になったが、オーナーの教えがまだ息づいている。先の先を考えて「今後どういうものが必要か」「何が世の中の役に立ち、喜んでもらえるのか」ということを経営判断するときのベースに据えている。だからこそ「それは、うちがやりましょう」と、担当役員や社長の独断で決められる。もちろん判断後の役員会では必ずその話をして、皆の同意を得ている。反対意見があったら、自分の信念と考え方をきちんと説明することが大事だ。こちらも納得してもらえる自信があるのだから。

 これは現場でも同じである。支店長でも、営業所長でも結論を出せない人はリーダーといえない。それは責任逃れだ。サラリーマンの場合は間違っていたら責任問題になるから、事なかれ主義になりがちだ。悪しき合議制に陥り、議論がぐるぐる回る。最終的には「みんなで渡れば怖くない」という印象の当たり障りのない結論になる。このプロセスに時間をかけていたら一歩も二歩も遅れてしまう。だから、スピードは最大のサービスであり、結論が出せない人はリーダーではない。

 大和ハウス工業でも悪しき合議制が幅を利かせていた時期があった。すべての稟議書が形式的に経営会議に上がってきていた。例えば、住宅地向けに10アール(1000平方メートル)程度の土地を買いたいという決済までもが、経営会議の議題になっていたのだ。その判断を待っていたら10日や2週間は簡単に過ぎてしまう。結論が出るまでその土地が残っていたら、逆にその土地を欲しがる顧客はいないという証しだ。

 地元の住宅会社のほとんどはオーナー社長が経営している。オーナー社長が見に行けば「じゃあやれ」とすぐに決まってしまう。だから、大和ハウス工業では「おまえら、何で、いちいち稟議書を上げるんや。支店長は支配人教育された社長の代理人だから、社長に代わって結論を出せ」と経営判断のプロセスを変えた。

 今は、全国に細かくブロック制を敷いて、ブロック長が判断する仕組みを採っている。彼らだけを見たらいいという体制を現在の社長が上手に運営している。ブロック長の判断基準は、自分がオーナーだったら自分のお金で手を出すかどうかである。だから大和ハウス工業は結論が早いはずだ。びびって結論を出せない上司がいれば、困るのは部下で、現場は迷走する。

 ただし、「独断はいいが、独裁はダメ」という切り分けが大事だ。私がどんなに元気でも、これから10年、20年の間、トップを続けることはできない。世代が変わっていく中で、悪い部分だけマネをしたがる人が出てくる。そうすると、独断と独裁を同時にやってしまう。肩書におぼれて「自分は偉くなった」と考える人が増える会社はたいてい業績が落ちていく。

 会社は成長し続けることが大切だ。継続は力なりである。成長し続けるには、さまざまな事業、新しい商品を生み出していくしかない。

 例えば、当社では環境エネルギー部を立ち上げ、小さかった部署の売り上げが増え、大きな利益を上げるようになって、環境エネルギー事業部という大所帯になった。世の中が必要とする事業で、新しい事業スキームをつくり上げる取り組みは、働いている社員にも身返りがある。会社は売り上げも利益も伸び、社員は給与も賞与も増える。そうすると自分たちの生活も豊かになる。

 これが逆に給与カットや人員整理などの方向に進んでしまうと、頑張っている社員も、いつかは自分もそうなるのかと前向きになれなくなる。常に社員が前向きになれるように働く環境を整えていくのが、経営者の役割だ。止まったらダメだ。水は流れが止まったら淀む。経営も同じだ。だから常に目標に向かって前進し続けなければならない。