元米マイクロソフト CTOであるネイサン・ミアボルド氏が立ち上げた米インテクチュアル・ベンチャーズ(Intellectual Ventures)は、発明を取り引きする資本市場の創出に挑んでいる。その取り組みはユニークだ。根底にあるのはオープンイノベーションの発想である。

 世界中の研究者と協働する技術開発、既存技術の買い取り、そして自社研究所での将来技術の開発という3種類の取り組みを組み合わせることで、発明のポートフォリオを構築する。多様な技術のパッケージ化によってリスクヘッジを実現し、単体ではリスクが高く投資対象になりにくい発明でも投資家を集められる枠組みを実現している。ミアボルド氏は、この新しい発想の活動が新しい商品やサービスによる多くのイノベーションを生み出す原動力になるとみる。(リアル開発会議)

1件でも大成功すれば、10億米ドル規模の利益を生む

 もし、あなたが発明家であるならば、アイデアを世の中が受け入れるまでの長い間、我慢を強いられる時期に直面するだろう。アイデアの内容が先鋭的であればあるほど、我慢の期間は長くなる。

 例えば、私は1991年に米マイクロソフトの内部レポートのメモ書きとして、現在のスマートフォン(スマホ)とほぼ同じような携帯機器のアイデアをイラストで描いたことがある。発明と言えるほどのものではなかったが、スマホの登場を予見する内容だった。

 こうしたアイデアを見て、「それがいつ世の中に現れるのか」を予測することは難しい。私のイラストを見た人はしばらく、「ネイサンは間違っている」と考えていたに違いない。しかし、十数年が経過し、実際にスマートフォンが姿を現すとその評価は変化してくる。「何てことだ。ネイサンは才能にあふれた人物だ」と。

ネイサン・ミアボルド氏。米Intellectual Ventures CEO兼共同設立者、元米マイクロソフト CTO(写真:Intellectual Ventures)
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 優れた発明、優れたアイデアというものは、得てしてそういうものだ。発明には、高いリスクが伴う。それは、投資家の関心を引くことが難しいからだ。ほとんどの発明は実用化に至ることなく消えていく。実用化されたとしても、コストが高過ぎたり、さらに素晴らしい発明の後塵を拝したりする可能性は高い。あるレポートによれば、発明家に利益をもたらす特許は全体のわずか1~3%に過ぎないという。

 確かに、単体の発明はリスクが高い。しかし、広範な技術分野について数万件の水準で発明を集めれば、全体のリスクを管理できるようになる。ポートフォリオを多様化し、リスクヘッジしやすくなるからだ。数千件の特許から成るポートフォリオのうち、たった1件でも大成功すれば、10億米ドル規模の利益を生む可能性がある。これが、私がインテレクチュアル・ベンチャーズ(IV社)を創業した狙いだ。発明を取り引きする資本市場をつくり出すことにIV社は取り組んでいる。

 会社の形態は、外部の投資家による出資を運用するファンドである。一般的なベンチャーキャピタルは事業に投資し、事業による利益や株式売却益を投資家に還元する。これに対し、IV社は技術(発明、特許)そのものを投資対象にしている。技術に資金を提供し、その技術を利用したい企業などに供与する。その対価を投資家に還元するのだ。

 運用資産は60億米ドル(1米ドル=102円換算で6120億円)以上で、これまでに30億米ドル(同3060億円)以上のライセンス収入を得ている。多くの発明が生まれてくるように応用研究を収益性の高い活動に変え、民間投資をこれまで以上に増やすことが目標だ。この取り組みは多くのイノベーションを生み出す原動力になるはずである。