半導体業界の今と未来を、さまざまな視座にいる識者が論じる「SCR大喜利」、今回のテーマは「ADASでパソコンの「Wintel」のような業界標準は生まれるか」である。今、注目の車載システム、先進運転支援システム(ADAS)に向けた半導体市場の行方を探る。

 第3回目の今回は、車載機器だけではなく、さまざまな組み込みシステムの中でその重要性が急激に高まっているFPGA(field programmable gate array)の大手メーカー米Xilinx社から、Senior Manager, Worldwide Automotive Marketing and Product PlanningのKevin Tanaka氏が登場する。

Kevin Tanaka
米Xilinx社 Senior Manager, Worldwide Automotive Marketing and Product Planning
車載機器向けのFPGAとCPLDの開発を指揮している。13年以上の車載機器向け半導体の分野での実績を持っている。Xilinx社に入社する以前、NECエレクトロニクス・アメリカの車載機器向け部門で、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサー、パワー半導体などのプロダクト・マーケティング・マネージャを務めていた。

【質問1】ADASの開発・生産において、特定仕様の半導体デバイス、ソフトウエアをベースにした開発プラットフォームは必要でしょうか?
【回答】 柔軟性のあるADAS開発プラットフォームが必要

【質問2】ADASにおいて、パソコンにおけるWintelのような開発プラットフォームの業界標準が生まれる可能性はあると思われますか?
【回答】 いいえ。PCとは完全に違うシナリオになると考える

【質問3】自動運転やバッテリー制御など、制御色の強い車載電子システムでは、開発プラットフォームの標準化の考え方にADASと違いはありますか?
【回答】 自動運転は似ているが、バッテリー制御は違う

【質問1の回答】柔軟性のあるADAS開発プラットフォームが必要

 現在さまざまなタイプのADASが市場に出ている。しかし、ADASシステムは多くの場合、共通部分が多く、以下の構成要素に分けられる。1~6台のカメラ、さまざまなタイプのセンサー(カメラ、レーダー、超音波など)、データ・フュージョン(スマートセンサーとECUの集積化の有無)、センサーとのインターフェース(LDVS、PCIeなど)、集積化した複数機能(ベースシステム/ミッドレンジ/ハイエンドシステムの差によってプロセッシング・パワーが増減)、さらに異なるOEMやマーケットから要求される特別な機能などである。これらの構成要素と要求を半導体によって実現する方法は、次のように複数ある。

(1)特定アプリケーション向けにデバイスを作成する(例:レーダーベースのADAS向け):これは過去には有効だったが、先端プロセス技術、例えば28nmプロセスを使用する場合、需要が少なくなってきている。また、市場規模の予測が難しい環境では、経済的な面からデバイスを開発・量産することは現実的ではなくなっている。

(2)すべてのADASに対応できるデバイスを作成する:必要な機能をすべて1チップに実装することは技術的には可能だ。ただし、実際にこれを特定アプリケーション向けに使用する際、使用されない機能・チップ上の回路が増えすぎて、経済的な面で現実的ではない。

(3)異なるADASに対応できるフレキシブルなデバイスを作成する:これはXilinxが「All Programmable」SoCデバイスである「Zynq-7000」で採用している方法である。ZynqはADASの要求するパフォーマンスに対して、ハードウエア部でのプロセッシング性能とソフトウエア部での解析機能の両面に対応可能である。また、各アプリケーションに要求される機能をフレキシブルに実装することができる。また、ソフトウエアとしては、ソフトウエア階層の低レベルな部分ではAUTOSARが注目を集めている。高レベルな部分に当たるADASアプリケーション・ソフトウエアについては、OEMは各社ごとに独自のアルゴリズムを差異化要素として内製化する傾向にある。