今年2月にロシアのソチで開催された冬季五輪。走る、跳ぶ、泳ぐなど、基本的な運動を中心とする夏季五輪に比べると、冬季五輪はスキーやスケートなど器具を使った競技が多い。選手が身に着けるユニフォームや用具などの種類が豊富で、科学技術の入り込む余地が大きいのではないかと感じた。

 中でも、興味深かったのはスキージャンプだ。標高差140m、最大傾斜36度にもなるジャンプ台の急斜面を、身体をかがめながら一気に滑走し、飛び出す。踏切台に到達する時点では時速90kmに達するという。飛び出した後は曲げたひざを素早く伸ばし、上半身を起こすことによって、滞空時間を伸ばす「揚力」を得ることが求められる。

 スキージャンプでは、踏切時のスピードと飛距離の相関が高く、相関係数は0.89にもなるそうだ。つまり、踏み切り台までにいかに加速するかが勝負を分ける。助走速度が秒速1メートル(時速3.6km)違うだけで、飛距離は5~20mの差になるという。

車体形状の工夫だけでは、空気抵抗の改善が限界に

 滑走時の加速を大きく左右するのが空気抵抗である。選手は、空気抵抗を最小化するために小さくかがんだ態勢をとるのだ。現在は、滑走時の両足はスキー板と並行、膝の角度は90度、両腕はリラックスして体側に沿わせるなどの形が主流となっている。まさに身体を使った空気抵抗制御である。

 スキージャンプと同じように、空気抵抗の制御が求められる分野が自動車の世界だ。空気の抵抗は燃費に大きな影響をおよぼす。このため、走行時の空気抵抗を抑える技術は、古くから研究が活発だ。

 ただし、これまで主流だった車体形状の工夫だけでは、空気抵抗の改善が限界に達しつつある。そこで、自動車業界で進んでいる技術開発が、アクティブな空気抵抗制御である。つまり能動的に車体周辺の空気の流れを変えることで空気抵抗を低減する試みだ。

 ハイブリッド車(HEV)やディーゼル車、電気自動車(EV)といった駆動系の燃費競争が活発に進行する一方で、実は昔から続く空気抵抗の抑制技術に革新が求められている。最近では、走行速度に応じて自動車の形状を変え、空力抵抗を最適化してしまうというユニークなアプローチも出てきているのだ。