世界の賢人たちによる未来予測本は、みな独自性にあふれたものだ。しかし、それらを足し合わせて平均してしまえば、「現状と何も変わらない」という陳腐極まりない結論になってしまう。そのことを前回の「未来は『平均値』で考えてはいけない」で触れさせていただいた。つまりは、それぞれの予測を集めて多数決を採るのではなく、「いいとこどり」をしていく必要があるということだ。

 実際に、未来予測に関するリポート『メガトレンド2014-2023』(日経BP未来研究所)を執筆する前段階として私もこの作業に挑んだわけだが、その際に気づいたのは、個々の予測は、著者が属する国や地域、そして著者の専門分野などを強く投影したものになっている、ということである。それは個性、あるいは独自性とも言えるものであり、各著作の魅力となっている。だが、彼らの予測を具体的な事業計画などの参考にしようとするのであれば、このことには十分留意すべきだとも思う。

 著名予測本の具体例として前回、BIノルウェービジネススクール教授のヨルゲン・ランダースが著した『2052 今後40年のグローバル予測』(日経BP社、2013年)と英エコノミスト誌編集部がまとめた『2050年の世界 英『エコノミスト』誌は予測する』(文芸春秋、2012年)の内容について紹介させていただいた。今回はさらに著者の「地域」を広げ、それらの特徴を探ってみたい。

「世界の警官」を自認する米国の賢人は日本を高評価

 まずは米国の予測本『100年予測―世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図』(ジョージ・フリードマン著、早川書房、2009年)から。

 仮に英国が世界の政治と経済を主宰するボスの前任者だとしたら、ただ今その地位にあるのは米国だろう。中国をはじめとする新興諸国の台頭によって相対的な存在感は低下しつつあるとはいえ、米国が唯一無二の超大国であることには疑いの余地がない。

 科学技術、情報メディア、金融経済など、あらゆる分野で支配力を誇る米国だが、中でも抜きん出た強さを誇るのが軍事分野だ。陸海空軍は、米国以外のすべての軍隊が連合したとしても、それをはるかに上回るだけの力を保持しており、兵器の先進性や情報収集能力など、あらゆる側面で他国を圧倒している。アメリカの「力の源泉」は圧倒的な軍事力であるといっても差し支えない。

 そんな彼らが見る風景を学問に例えて表現すると、「地政学的視点」ということになる。経済力学や地球環境などの諸問題は、歴史的な視点で地域の興亡を考える場合には、さほど大きな要素ではない。大国の興亡史を振り返れば、最も重視すべきは「覇権の力学」なのだという考えのもとに、著者である米国のジョージ・フリードマンは未来を予測する。