適合する未来予測アプローチ
2020年に向けた日本の成長戦略を議論する中で、インフラ輸出を抜きには語れない。日本の首相官邸は「インフラ・システム輸出戦略」の中で、現状で10兆円といわれているインフラの輸出を、「2020年に30兆円に引き上げる」との戦略目標として掲げた。この背景は以下の二つで説明できる。
一つは、2030年までの累計投資額が数千兆円と予測される、新興国を中心とした世界のインフラ市場の急激な成長が見込まれる中、日本企業の出遅れと敗北が見受けられるという事実がある。国を挙げてインフラ輸出に力を入れる中国、米国、韓国と比較して、日本の輸出規模は小さい。もう一つは、一般的に日本企業は、個別の機器については強みがあるが、インフラ・システム全体を受注することができていない。システムとして受注することは、日本企業の進出拠点の整備やサプライチェーンの強化につながるなど、直接的な受注だけではない効果を生み出すが、日本はそこがあまり対応できていない。
日本のインフラ・システム輸出の戦略目標を掲げる上で特に重要となるのが、未来予測である。未来予測は大きく二つのアプローチがある。現在の事象からの延長上で将来までに起きうる出来事を予測し未来像を描くフォーキャストと、将来発現する未来像を先に描いてから現在にさかのぼって未来までの出来事を埋めていくバックキャストである。
インフラの場合、上述の通り、国の政策と計画や主要プレーヤーの動向が重要であり、未来予測としてはフォーキャスト型に区分できる。現在進行形の状況を押さえるとともに、過去の技術、製品、事業の歴史とそれらに影響を与えてきた社会・産業の変化を整理・認識しておくことが効果的である。未来予測に当たっては、並行して過去の歴史への考察を併せて行うべきである。インフラは、その性格上、すそ野の広い産業を構成する特徴があるとともに、対象となる国・地域の歴史的、社会的、経済的要因などが複雑に絡みあっている。従って、インフラ産業を理解し、ビジネスの将来を展望するためには、前提となる外部環境の変化を踏まえた上で、関連する産業動向を理解し、進出する対象国の状況を把握することが望ましい。