「研究者は研究に熱中しているので、マネジメントができなくて仕方ない」
「日本は余裕がなくなって研究者は研究に集中できなくなっている」
「30代の研究者は研究以外のことは未熟」

 STAP細胞の事件についてこういった報道を見るにつけ、かなりの違和感を覚えます。というのも、理研や産総研のような独立行政法人(独法)や大学のように、公的な資金(税金)を頂いて研究を行う研究者にとって、研究マネジメントは研究と同じくらい重要だからです。今回のSTAP細胞の件は、MOT(技術経営)の失敗の題材としてとても興味深い。

 独法や大学の研究者は研究の提案書を出して、数倍から数十倍もの競争的資金を獲得しなければ研究を実施することは難しいことが多い。研究資金のほとんどが税金ですから、財政難の日本では仕方のないことです。大型の資金を獲得したら、顕著な研究成果を出して論文を書くだけでなく、プレスリリースなど広報活動を積極的に行うことも求められます。

 更に、私のような産業界と近いITのような分野では企業と連携し、研究成果を製品として実用化することも強く求められます。私は東京大学と中央大学で教員を経験しましたが、こうした原則はどこでも同じでしょう。資金を得るためには研究提案書を提出する研究の初期段階から企業との連携を求められることも多く、研究者には連携して頂ける企業を探す「営業」も求められるのです。

 更に研究費を獲得したら人材を探すこともあります。大学は教育機関ですから、学生に対しては教育を行うことが本務です。研究資金を受け取ってどうしてもやらなければいけない研究に関しては、研究員を雇用してやって頂くことも多いのです。

 資金集め、実用化してくれる企業や人材集めに「こうすれば必ずうまく行く」という方程式はありません。研究者の方々はそれぞれ工夫をこらしてやっておられます。私の場合はツイッター(リンク先)やブログ(リンク先)、このコラムなど、外部に情報発信することも研究の広報の一環です。