日経テクノロジーオンラインでは、2014年4月1日に、有機エレクトロニクスのテーマサイトをスタートさせました。有機半導体材料や炭素材料を用いた各種デバイスの技術開発の最新情報を中心にお伝えしていきます。

 2014年は、有機ELディスプレー、有機EL照明、有機薄膜太陽電池などにとって大きな節目の年になりそうです。各メーカーは数年前から2014年を実用化の目標時期として開発を進めてきたからです。実際、いくつかのメーカーが最近、相次いで非常にユニークな有機EL照明や有機薄膜太陽電池の製品化、または量産技術を発表しました。

 例えば、有機EL照明において、住友化学は2014年3月7日に、高分子材料を基にした2色を発光できる照明用パネルの量産技術を確立したと発表しました。コニカミノルタは2014年3月18日、約100億円を投じて2014年夏にフレキシブルな有機EL照明パネルを月産100万枚の規模で量産する製造ラインを建設し、同秋に量産を始めると発表しました(関連記事)。その発表の翌日には、三菱化学とパイオニアが、発光層を製造コストの低い塗布法で作製する有機EL照明パネルの量産を始めたと発表しました(関連プレスリリース関連記事)。一部報道によれば、量産ラインは月産4万枚の生産が可能としています。

 海外では韓国LG Chem社が、発光効率60lm/Wで寸法が320mm角と、製品としては最大級の有機EL照明パネルを開発し、サンプル出荷を始めています。発光寿命(LT70)は4万時間とLED照明と肩を並べました。

 強気の投資を進めるメーカーが相次ぐ一方で、実用化のメドがたたない、または市場の広がりに見通しがつかないという理由で事業からの撤退や倒産に至ったケースも出ています。昭和電工は有機EL照明において40%超という非常に高い光取り出し効率を実現する技術を持っていましたが、2014年1月に同事業から撤退しました。その昭和電工も出資していたベンチャー企業のイー・エル・テクノは2014年2月に倒産。2014年3月31日には、パナソニックと出光興産が共同で設立したパナソニック出光OLED照明が会社を清算しました。

 社運をかけて大型投資に踏み切ったメーカーと倒産や事業撤退に追い込まれるメーカー。まさに“明暗”が分かれています。すべてが右肩上がりで「作れば売れる」時代ははるか昔に過ぎ去りました。既存の製品は市場は大きくても激烈な低価格競争に巻き込まれる一方、技術や製品一つで成功を確約できる新事業も存在しません。成功の確約にこだわる企業は何も新しい事業を始められないでしょう。

 新事業を成功させるには緻密な戦略と大胆なリスクを取る判断が必要不可欠です。まだ成功例が少ない有機エレクトロニクスには特に戦略が欠かせません。

 当初の技術水準がほぼ同じでも戦略の違いによって事業の明暗が分かれた例は最近では例えばCIGS系太陽電池があります。昭和シェル石油とその子会社のソーラーフロンティア(旧・昭和シェルソーラー)は2008年ごろから、CIGS系太陽電池についてGW級の大規模量産に舵を切りました(関連記事)。当初は一般投資家の評価が非常に低く、事業も赤字続きでしたが、今では「GWクラブ」とも呼ばれる世界の太陽電池メーカー大手の一角に食い込み、昭和シェル石油の本業である石油事業に迫る営業利益を出すまでに成長しています。

 一方、ホンダの子会社であるホンダソルテックは2007年にCIGS系太陽電池の量産を始めましたが、技術と市場の立ち上がりを見極めるという慎重姿勢から量産規模を低く抑え続けた結果、コストの低減競争に乗り遅れて撤退という結果になりました(関連記事)。

 野村総合研究所 コンサルティング事業本部 ICT・メディア産業コンサルティング部、上級コンサルタントの藤浪啓氏は「日本は伝統的に合意形成の社会。合意形成では、逐次的な戦力投入や投資になりやすく、その結果として失敗するケースが多い。先の大戦もその例の一つ。Must Have(絶対欲しい、作れば売れる)ではない新事業で成功するには、リスクを取れるカリスマ的なリーダーのトップダウンの判断が必要になる」と指摘しています(同氏のインタビュー記事)。藤浪氏は、新事業に踏み出す際のいわゆる垂直統合型か水平分業型かといった体制の問題にも触れ、「市場開拓時の鶏と卵のジレンマを超えるには、一時的にせよ垂直統合型でなければ前に進めない」とも述べています。

 もちろん、垂直統合型で一度成功しても市場が拡大した後は、水平分業型に移行する必要があるケースが多いのです。日本には、市場開拓だけは得意だが、事業の投資判断が遅れがちで、後発の身軽な水平分業型のメーカーに負けるパターンを繰り返しているメーカーもあります。垂直統合型だけ水平分業型だけ、ではなく、状況に応じて体制を変えていく戦略や組織の柔軟さが必要でしょう。

 有機半導体材料や炭素材料はそれ自体が魅力的で、画期的な製品や新しい事業につながる高い潜在力を備えた材料です。ただし、その潜在力を現実に生かしていくには、新市場の開拓という“産みの苦しみ”を覚悟する必要もあります。新テーマサイトでは、新材料や新しいデバイスの最新動向と同時に、市場開拓のための戦略についても積極的に取り上げていく方針です。