自動車向けの暗号開発に取り組むのが情報通信研究機構(NICT)セキュリティ基盤研究室である。室長の盛合志帆氏は、NTTで世界標準暗号の開発に携わり、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)やソニーでゲーム機や家電製品などのセキュリティープラットフォームを開発した人物。盛合氏が次の一手として見据える先が自動車向けの暗号開発だ。同氏は2014年4月17日~18日に開催する自動車の情報セキュリティーシンポジウム「escar Asia」のプログラム委員も務める。

 3回連載の第2回は、盛合氏に加えて同じ研究室の主任研究員である野島良氏を交え、自動車の情報セキュリティーを高めることができる「軽量暗号」に対する取り組みを中心に聞いた。(聞き手は清水直茂=日経Automotive Technology)

独自暗号は使わないほうがいい

盛合 自動車の電子制御ユニット(ECU)ではリアルタイム性と低コストを両立しないといけないので、搭載できる機能は限られます。暗号を載せるにしても、計算量が小さくて“軽い”「軽量暗号」が重要だと考えています。「軽量」という言葉には、計算量が小さいことだけではなく、例えばハードウエアへの実装面積が小さいことやゲートサイズが小さいこと、消費電力が小さいことなども含みます。結果として、安く搭載できると思います。

 実は最近、軽量暗号の研究は盛り上がっています。自動車を含むM2Mの世界で必須になるとみられているからです。主流の軽量暗号は、64ビットのブロック暗号方式ですね。日本発の暗号技術評価プロジェクト「CRYPTREC」(事務局は総務省/経済産業省、盛合氏は委員の一人)でも軽量暗号に関するワーキンググループを立ち上げて議論しています。

――64ビットブロック暗号方式のビット数だけ聞くと、過去に戻っているようにも見えます。

盛合 解読技術は常に進歩していますので、過去の暗号ではさすがに安全を担保できません。今の解読技術を使っても破られない暗号を64ビットブロックで作ろうとする研究が進んでいるのです。ISOで標準化された軽量暗号として、64ビットブロック暗号の「PRESENT」があります。最近のベンチマークになる暗号です。日本にもいろいろあります。ソニーの「Piccolo」、NECの「TWINE」などです。

野島 8ビットマイコンでも十分に動作する暗号にしないと、自動車を開発している人にはなかなか使ってもらえないでしょうね。あと、遅れ時間が数ナノ秒、数ミリ秒と短い暗号の研究も最近かなり注目を集めています。これも自動車の開発者は注目したほうがいい話題だと思います。

左が主任研究員の野島氏、右が室長の盛合氏
左が主任研究員の野島氏、右が室長の盛合氏
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