デザイナーの水戸岡鋭治氏がデザインした豪華寝台列車(クルーズトレイン)「ななつ星in九州」(JR九州)は、2013年10月15日の営業運転開始後、かなりの高額であるにもかかわらず、大変な人気を博している。最終回は、「顧客の期待値」を常に超えようとする姿勢について語っていただく。

(ななつ星in九州の企画の経緯などは第1回に掲載)
関連記事を日経ものづくり2014年1月号に掲載)

――もう一つ、顧客の期待値を超えていくことが大事、と著書に書かれていますね。

「ななつ星in九州」(JR九州)の車両をデザインしたドーンデザイン研究所代表の水戸岡鋭治氏
写真:尾関裕士

水戸岡氏:期待値を超えるのは簡単ではないんですけれど、できないことではありません。常識的にはこのぐらいしかできない、これもできないあれもできない、予算を超える、能力を超えていると既成概念で決め付けるのをやめることですね。確かに、この予算とスケジュールで自分の能力がこうだから、多分これしかできない、っていう一般的な答えはあると思います。そこを、能力とか予算とかスケジュールとかをいったんおいて、取りあえず全力で頑張ってみようじゃないかと、自分が今持っている能力を全部フルに使ってやるとどんなものになるか、とやってみるかどうかですね。

 例えば、2時間かかっていた仕事を1時間でやる。自分も変わりますし、コストも半分になりますよね。そういうふうに、今までやっている仕事の仕方よりも少しステップアップして、もっと情熱を持って、周囲の人と広くコミュニケーションを取って、あらゆる情報を吸収していこうと。自分にとって今までとはちょっと違ったやり方で、それを周囲にもお願いすることで、期待値を超える可能性がありますよね。

 8時間でできなかったら1時間足して、9時間かけてやる。その1時間をいかに足していくか。6時間、7時間でできる人もいれば、8時間に1時間足さないとできない人もいるわけだから、できない人は足すしかない、できる人はやらせておけばいい、能力に応じたやり方を見つけて質を上げていくしかないんですよ。そうすると今までとは違うものができてくるんです。できてくるんだと信じない限りできないですけれども。

――JR九州の仕事では、期待値を超えているわけですね。ななつ星にしても。

水戸岡氏:JR九州と仕事してうれしいのは、もっと面白いことをやってみようとか、もっと頑張ってみようとか、期待値を超えようとする意識がすごいところですね。25年前(JR発足当時)には大赤字から到底脱出できないだろうって思われていた会社が、今こうやって黒字になって、東日本と対等に戦えるような全国区の会社になった。企業の規模では比べものになりませんけれど、存在感とか物語という点では十分戦っているわけですから。そういう成功体験が社員にすごく影響を与えて、意識が変わっていく。その意識が、期待値を超えるものをつくっていく可能性を生んでいくわけです。