専門性や立場の異なる複数の識者が半導体の今と将来を論じる「SCR大喜利」、今回のテーマは「微細化終焉後の人間社会を展望する」である。長年、半導体の進化のドライバーであり続けてきた微細化技術は今、限界に近付きつつあるとされる。もし本当に微細化が止まってしまったら、電子機器の進化、さらには人類社会には何が起こるのだろうか。半導体技術者や、業界の動きを常に追うコンサルタント、研究者など4人に聞いた。

 各回答者には、以下の三つの質問を投げかけた。今回の回答者は、微細加工研究所 所長の湯之上隆氏である。

湯之上 隆(ゆのがみ たかし)
微細加工研究所 所長
湯之上 隆(ゆのがみ たかし)
 日立製作所やエルピーダメモリなどで半導体技術者を16年経験した後、同志社大学で半導体産業の社会科学研究に取り組む。現在は微細加工研究所の所長としてコンサルタント、講演、雑誌・新聞への寄稿を続ける。著書に『日本半導体敗戦』(光文社)、『電機・半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北-零戦・半導体・テレビ-』(文書新書)。趣味はSCUBA Diving(インストラクター)とヨガ。

【質問1】半導体(主にCPUのようなロジックLSIを想定)の微細化はいつごろ、どのような理由で止まると考えられますか?
【回答】 人類が滅亡するまで微細化は続く

【質問2】微細化が止まったとすると、人々の暮らしや社会基盤にはどのような影響を与えると考えられますか?
【回答】 人類社会へのインパクトは極めて軽微

【質問3】微細化が止まったとすると、コンピュータや電子機器は何を基軸として進化すると考えられますか?
【回答】 創造的破壊によるイノベーション

【質問1の回答】人類が滅亡するまで微細化は続く

 まず、「半導体の微細化が止まった状態とは何か?」を定義する必要がある。しかしその定義は、なかなか難しい。

 スケーリング則に基づいたムーアの法則では、トランジスタの寸法は3年で0.7倍になるといわれてきた。最近の国際半導体技術ロードマップ(ITRS)を見ると、プロセッサーのゲート長(hp)は、今後1nm刻み、その先は0.8~0.7nm刻みで微細化されることになっている(図1、もちろん、この通りに微細化されるかどうかはわからないが)

 ちょっと計算してみると、今後は3年で0.8倍のペースで微細化されることになる。これが困難になったら3年で0.9倍になるだろうし、それも困難になったら5年で0.9倍、さらには10年で0.9倍になるのかもしれない。つまり、まるでアキレスと亀の競争のように、微細化はこれまで以上に細かくステップを刻むと予想される。

 もし、10年で10%しか微細化されない時代が来た場合、「それはもう、微細化が止まっている」という人もいるだろうし、「いやいや、スローダウンしたけれどまだ微細化は続いている」という人もいるかもしれない。このように、「微細化が止まった状態」を定義することは難しいのである。

 私の回答は次の通りである。半導体の微細化はスローダウンしながらも、より細かなステップを刻みながら今後も続く。したがって、微細化は止まらないのである。もしかしたら、人類が滅亡するまで、微細化は続くかもしれない。

図1●国際半導体技術ロードマップ(ITRS)(ITRSを基に著者が作成)
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