Siウエハーの表面をナノインプリントで加工し、はっ水性を高めた例
Siウエハーの表面をナノインプリントで加工し、はっ水性を高めた例
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 2014年3月17日号の日経エレクトロニクスでは、ナノインプリント技術の最新動向を紹介しています。ナノインプリントは、微細なパターンを彫り込んだ判型を樹脂などに押し付けてパターンを転写する技術。2000年代に大きな話題になったものの、欠陥が多いなどの技術的な課題が多かったことや既存技術との競争で大きなメリットを示せなかったことから、期待外れとの見方が定着しつつありました。

 それが、最近は従来の技術的課題の多くが解決、または大幅に改善しています。同時に、半導体に限らない新しい用途が次々に開発されていることで、既存技術との低コスト競争に巻き込まれにくくなっています。メートルサイズの巨大判型まで作製可能になり、それがさらに新しい用途を生む流れになっています。

 伸びつつある有力な用途は、いわゆる「生物模倣」。生物の優れた運動能力やその他の特殊能力を技術で再現して利用しようという考え方です。これにナノインプリントが非常に有力な武器になりつつあります。シャープが大型液晶テレビに用いている「モスアイパネル」は、蛾の目の表面にある凹凸をナノインプリント技術で再現し、光の反射を大幅に低減しています。

 最近は、セミやトンボの羽の表面にある微細な凹凸が、細菌に対して強力な殺菌効果があることが知られるようになってきました。これをナノインプリントで再現すれば、いわゆる抗菌剤を使わなくても、壁や衣服に抗菌機能をもたせることができそうです。

 モスアイパネルの他に実用化が進みそうなのが、はっ水です。ハスの葉の表面にある凹凸をナノインプリントで再現することで非常に高いはっ水効果が得られることが知られており、自動車のフロントグラスなどへの利用が始まりつつあります。

 つい最近記事を執筆した、米Georgia Institute of Technologyの「静電気発電」とも呼べる発電技術もナノインプリントで樹脂表面に微細な凹凸をつけることで、発電効率を飛躍的に高めています(関連記事)。開発した研究者は、その発電技術で「世界が変わる」と強気です。

 約10年前の早すぎたブームから地道に技術を改善してきたナノインプリント。これから本当の活躍が始まりそうです。