今、多くの日本メーカーが東南アジアをはじめとするアジアの新興国に熱い視線を注いでいる。この数年の経済成長によって、従来のような製造基地としての位置付けだけではなく、消費の場としての期待が高まっているからだ。各国のライフスタイルを観察し、消費者ニーズを吸い上げながら商品開発を進める取り組みも活発である。

 しかし、その多くは「後付けの各国対応」で、近い将来、時代遅れになるという指摘がある。日本やアジアを中心とした若者のライフスタイル、消費トレンドの未来を予測したレポート『若者研究 2014-2018』(日経BP社)の著者で、気鋭の若者研究者である博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平氏は、アジア各国の若者の価値観やライフスタイルから共通項を抽出し、「アジア均一化時代」を前提に商品やサービスを開発することの重要性を説く。(日経BP未来研究所

「後付けの各国対応」は立ち行かなくなる

 「アジア均一化時代」が到来しようとしている。言い換えれば、これからは「アジアを同一の市場として捉えるべき」ということだ。

 これまで多くの日本企業は、日本で日本人向けに商品やサービスを開発し、それを海外に持っていって売っていた。これについては、「日本の商品をそのまま持っていっているわけではない」という反論もあるだろう。

 確かに、現地のニーズに合わせて多少改良していたかもしれない。最近は、その国や周辺国のニーズをくみとって商品を開発する事例も増えている。それでも、今なお「後付けの各国対応」が多い現状があるのではないだろうか。

 こうした地域ごとに対応していく商品開発は今後、効率が悪く、時代遅れになっていく可能性が高い。日本人向けの商品を海外で売る時代でも、各国向けに商品を開発して売る時代でもなくなっていく。この傾向は、これまで以上に加速していくだろう。

 この数年、日本をはじめ、中国や台湾、韓国の東アジア、ASEAN(東南アジア諸国連合)に何度も足を運び、若者へのインタビューを繰り返してきた。「アジア均一化時代」の到来は、アジア各国で若者の「生の声」を聞いた調査の結論である。

 その背景には、グローバル社会になり、スマートフォンやインターネットが普及したことがある。今やアジア中の若者は、同じ商品、サービス、お店、コンテンツに接し、同じ時代観を持つようになった。

スマートフォンを片手にSNSを使う若者はアジア各国で当たり前。写真は、タイでのインタビューのひとコマ(写真:博報堂ブランドデザイン若者研究所)
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 大雑把な表現で言えば、「スターバックスに行ってスマートフォンを片手に、『Facebook』や『LINE』といったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を利用する若者たち」は、アジア各国のどこにでもいるのだ。

 アジア中の若者たちの価値観やライフスタイルは極めて似てきている。この観点から考えると、「政冷経冷が続く中国か? それとも、親日が多く経済成長を期待できる東南アジアか?」「人口が減少し、高齢化が進む日本市場を捨てるべきか?」といった議論は、実はあまり重要ではない。「若者」という視点を持てば、アジアを同一市場と考えられる時代になりつつあるからだ。

 若者はいつの時代も消費のトップランナーの役割を担っている。若者の消費動向やライフスタイルを観察し、若者世代のニーズに合う商品やサービスを継続的に提供できれば、自然にその上の世代にもアピールすることにつながる。そのスタイルは、次代の若者の消費行動にも受け継がれる。

 特に今、多くの日本企業が熱い視線を注ぐ東南アジアは、平均年齢が20代の国ばかりだ。東南アジア向けの商品を開発するという取り組みは、若者に売る商品をつくることと同義である。中国も同じだ。「一人っ子政策」によって確かに若年人口の割合は減少傾向にある。しかし、絶対数では、10代、20代でそれぞれ2億人前後の若者が生活する若年層がとても多い国だ。