COCOROBOに搭載した「ココロエンジン」の生みの親であるシャープの阪本実雄氏は、内容を理解している少人数での開発が「とがったアイデア」を具現化できた理由だと振り返る。連載第4回の今回は、多くの開発者が経験するであろう「突然降ってくるアイデア」の原型をとどめながら開発していくことの重要性を説く。
お疲れのようなので、10分で終わります
2010年10月。私はシャープのランドリーシステム事業部で事業部長に就任した。掃除機や洗濯機の開発を手掛ける事業部である。
翌月に社内で経営陣に事業展開についてプレゼンする会議があった。私の順番は一番最後。午後4時くらいだったろう。会議室に入ると、1日続いたプレゼンで部屋の中は少し疲労の色が濃い印象だった。
「みなさん、お疲れのようなので、10分で終わります」
こう言って説明した内容は、3年後に「ランドリーシステム事業部」の名を改めて、「ロボットシステム事業部」にしますというもの。本当はもっとさまざまな事業展開を書いた資料を用意していたが、多くのプレゼン内容を飛ばして「ロボット事業をやります」とだけ話した。私は2年半しか事業部長を担当しなかったので、現在も事業部の名称は変わっていないけれど。
何か確信があったわけではない。関西人なので、疲れた雰囲気を癒すべく、笑いを取ってみようという気持ちも少しあった。とはいえ、もちろん計画にない話をしたということでもなかった。当日のプレゼン用に用意した十数ページの資料には、「ロボット掃除機に力を入れる」と記していた。自分としては、最もインパクトのある面白い部分を抜き出して話したのである。
当時、米iRobot社のロボット掃除機「ルンバ」は既に存在していた。ただ、まだ今のような人気商品ではなかった。私の話を聞いた経営陣は「おもろいな。どうやってするねん」と尋ねてきた。「これから考えます。一緒に考えましょうよ」。そう答えて、プレゼンは終わった。この会議が後のココロを持ったロボット家電「COCOROBO」の開発につながっていく。
「ロボットをやりたい」とは思っていた。ただ、「どんなものを作るのか」については、漠としていた。真剣に考え始めたのは、経営陣の前でロボット事業をやると大風呂敷を広げてからのことである。