家電に「ココロ」を取り入れることが、ユーザーの家電への愛着を取り戻すカギになる――。シャープのロボット家電「COCOROBO」に搭載した「ココロエンジン」の生みの親である阪本実雄氏は、ロジックでは説明できない家電の振る舞いが重要だと考えている。

 連載第3回の今回は、この発想に至った思考プロセスを阪本氏がさまざまな角度から自己分析する。家電がユーザーをアシストする機器だとすれば、その本質は何か。これからの家電はどうあるべきか。論考は、お笑いタレントから人工知能論にまで及ぶ。

電気仕掛けのペットを作りたかった

 「なぜ、ロボット掃除機なんですか」

 ロボット家電「COCOROBO」を発表してから、メディアの取材などでこう聞かれることが多い。だが、振り返ってみると、そもそもの発想の原点は「ロボット掃除機を作りたい」ではなかった。「自走式の商品を作りたい」と漠然と考えていたのだった。

シャープが2013年12月に発売したロボット掃除機「COCOROBO」の新機種
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 それは、家の中を勝手にぐるぐると動き回り、何か情報を取得したり、癒してくれたりする、いうなれば電気仕掛けのペットのような商品である。

 パトロールとでも言えばいいだろうか。恐らく、犬や猫などのペットは、家の中や散歩に出た外の様子を日々パトロールしている。犬や猫がどんな思いで、どのようにパトロールしているのか。それは分からない。だからこそ、そういう商品を作ったら面白い。そう思った。

 思い付きベースでは、このアイデアを周囲に話していた。しかし、話を聞いてくれた人々には、「それは変じゃないですか」と返されることが多かった。そう言われてみれば、「確かに家の中を勝手に走り回ったら嫌かもな」と思い直してみたりもした。

 そんな時に、米iRobot社の「Roomba(ルンバ)」に出合う。「ああ、そうか」と思った。「家の中を勝手に走り回ることを、お客様に分かり易くする形の一つとして、掃除機という機能があるのかも」とルンバから学んだのである。

 でも、ルンバは、私が考えていた電気仕掛けのペットとは少し違っていた。基本は、家の中を動き回る動作を掃除という機能に使っているだけだったからである。それでも、ロボット掃除機には愛着を感じるお客様が多いという。それは、なぜか。以前から考えていた「家電への愛着」のヒントが見えてきそうな気がした。

 このことを考えながら、ノドに小骨がつかえているような気分が続いた。社内である社員と議論しているときにこんなことを聞かれたこともあった。