家電に「ココロ」を取り入れる「ココロエンジン」。シャープが家電に横展開することを目指す技術である。その生みの親であるシャープの阪本実雄氏は、なぜこの発想にたどり着いたのか。前回は、同氏の原体験やココロエンジンの概要などを紹介した(前回のコラム「モノへの愛着を、いかに取り戻すか」)。

 連載第2回の今回は、阪本氏の発想の原点を振り返る。同氏は、事業部長時代に自ら大量にココロエンジンの企画書を作成したという。そこには、子供に人気の「ドラえもん」から、ある敏腕技術者から受けた薫陶まで、同氏のさまざまな体験が練り込まれている。

新しい時代の兆しを感じる

 先発のロボット掃除機を使っている周辺の人たちに感想を聞いてみた。「一生懸命働く姿がかわいい」「健気」という声が大変多かった。彼らの友達の中には名前をつけている人がいることも分かった。今までの家電、冷蔵庫やエアコンに名前をつけるなんて話は聞いたことがない。意識はされていないけれど、新しい家電と人との関係ができつつあるのではないかと思った。

 であれば、もう一歩先に発想を進めて、家電自体に新しい概念をもたせることで、もっとあいまいな関係を作れないかと考えた。意図的にあいまいな要素を入れることによって、家電と人の関係をもっと変えられるのではないか。

シャープが2013年12月に発売したロボット掃除機「COCOROBO」の新機種
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 そのようなあやふやな考えが、2011年が明け、それから4カ月ほどして、突然ひらめいた。ロボット掃除機に人格が入ったら面白いなと。

 「掃除して」と話し掛けたら「嫌だ」と答える。そんなロボット掃除機があったら、家の中が楽しくなる。ただ、後に「掃除してとお願いして、『嫌だ』と言ったら、それは不良だろう」ということで、この機能はボツになったのだが。

 操作された内容をしっかりやることが家電の基本であるけれど、そうでない家電があってもいいのではないか?人が頼んだことを裏切ることはないけれど、気分を持つことで「ホントはこれをしたくないんだけれど…。でも、そこまでお願いされるんだったらやってあげる」みたいな家電があってもいいんじゃないか?それがココロを持たせる発想の原点だと思う。

 そのような家電ができれば、家電と人との関係がぐっと近づく。「安心の入口」として、お客様がホッとできる存在感や空気感を与えることができるはず。家に帰りついて、一息つくときの感じ、ホッとする感覚を実現できる。

 現在は人と人の関係が浅く、すごく細い。だからこそ、その孤独感を埋めてくれるものが重要になる。孤独感を埋めてくれるのは人か、ペットしか、今は無い。孤独を楽しめる道具、孤独間の生活に励ましや安心感を与えてくれる。

 当時は意識していなかったが、今思えば、家電にココロを持たせるというコンセプトにたどり着いたことには伏線があった。ランドリーシステム事業部に赴任する前、「オンリーワン商品開発センター」という部署で仕事をしていた。全社のコンセプトワーキングやユーザー調査などを手掛ける部署だ。中国やASEAN(東南アジア諸国連合)で生活者調査をする生活ソフトセンターの立ち上げに携わった。

 あるとき、日本向けの新しい商品コンセプトを何か考えようということになった。しかし、なかなか新しいアイデアは出てこない。煮詰まっていたときにメンバーの若手が「ドラえもんは、ヒントになりませんか」という提案をしてきた。