シンプルなテクノロジーで貧困を削減する――。

 このゴールに向けて取り組むNPO(非営利組織)がある。元国連職員の中村俊裕氏が米国で立ち上げたコペルニク(Kopernik)だ。新興国の現地の生活環境を向上する目的で、低価格かつ技術的にはシンプルながらも、工夫やアイデアの詰まった商品を届けるNPOである。

 コペルニクは、新興国のNGO(非政府組織)などの市民団体と、企業や発明家などの開発者、資金を寄付する支援者の3者をインターネットで結び付ける事業を手掛けている。さまざまな国際的な援助は、なかなか発展途上国の末端まで届かない状況が珍しくない。国連の活動でその様子を見た経験から、中村氏は貧困層が生活する地方まで着実に商品を届ける「ラストマイル」の物流が大切と考え、その取り組みに力を注いでいる。特徴は、ビジネスの手法を取り入れた事業モデルだ。

 具体的には、インターネットを用いた資金調達サービス「クラウドファンディング」の手法を用いている。市民団体は、コペルニクの審査を経た開発者の商品群の中から活動に必要なものを選ぶ。その後、商品を現地に届けるために必要な資金を募るプロジェクトをコペルニクのWebサイトで立ち上げる。商品を購入し輸送する初期コストをクラウドファンディングによる個人の支援や企業の寄付で賄う仕組みだ。

コペルニクが扱う商品が使われている様子。左は、太陽電池を用いたLEDソーラーライト「d.light」。右は、水を運搬する労働の負荷を軽減する運搬容器「QDrum」。(写真:コペルニク)
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 商品を届けた後も現地の貧困層に無料で配布するのではなく、貧困レベルに合わせて設定した金額を支払ってもらう。現地の経済的な自立を促す狙いだ。コペルニクのWebサイトには、水を運搬する労働の負荷を低減するドラム型の運搬容器や、汚水をフィルターでろ過して飲料水にするタンクなど、アイデアがあふれるユニークな“商品”が並ぶ。

 コペルニクのCEOを務める中村氏は、著書『世界を巻き込む。―― 誰も思いつかなかった「しくみ」で問題を解決するコペルニクの挑戦』(ダイヤモンド社、2014年2月)で、「テクノロジーの価値を理解してもらい、長く大切に使ってもらう仕組みだ」と記している。「いくら貧困層向けの活動であっても、価格をつけることは重要だ。無料で配ると、必要でないという人にも届いてしまう可能性があり、せっかくのライトが有効利用されない恐れがある」(同書より)。

 中村氏の文章中に登場した「ライト」は、太陽電池を用いたLEDソーラーライトだ。電柱や電線がない地域にコペルニクのプロジェクトが届けて「販売」している。日中の8時間の充電で、8時間以上の明かりを供給できるという。

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太陽電池を用いたLEDソーラーライトは、東日本大震災の被災地に届けられた。(写真:コペルニク)

 実は、このソーラーライトは、2011年3月に起きた東日本大震災の被災地でも活躍した。コペルニクが立ち上げた震災支援のプロジェクトで、日本や米国、アジア諸国から36時間で600個のソーラーライトを届けられる金額が集まった。コペルニクが取り組む事業モデルと、ラストマイルの物流の取り組みは被災地でも役立ったのだ。

 ソーラーライトの例は自然災害という特殊事情ではあるものの、ここにきて「新興国向けに開発した商品や技術、ビジネスモデルが先進国に還流する」という動きが注目を集めている。「リバース・イノベーション」と呼ばれる新しいイノベーションの生まれ方だ。