「グローカリゼーション」だけでは、立ち行かなくなる

 リバース・イノベーションは、米Dartmouth Collegeのビジャイ・ゴビンダラジャン(Vijay Govindarajan)教授が提唱した。同教授は、著書『リバース・イノベーション ―― 新興国の名もない企業が世界市場を支配するとき』(ダイヤモンド社、2012年9月)で、「川下から川上へと向かって逆流する」イノベーションと表現している。「リバース・イノベーションとは、簡単に言うと、途上国で最初に採用されたイノベーションのことだ」(同書から)。

 これまで、イノベーションは裕福な先進国で始まり、その後で新興国に広がっていくという見方が一般的だった。つまり、経済的ゆとりのある先進国の消費者が消費し、その需要がさらなる技術の進化を促す。その後、時間の経過とともに、先進国を追い掛ける新興国へと次第に広がっていくという考え方だ。上流から下流に流れるということである。

 この考え方をベースに商品を開発するメーカーは多い。例えば、先進国の顧客向けに開発した商品を基に、現地のニーズに合わせて機能を落とすなどの修正を加え、低価格モデルを発売するといった取り組みだ。いわゆる「グローカリゼーション」である。

 ゴビンダラジャン教授は、この取り組みだけに注力することを前出の著書で「完全な誤りだ」と指摘している。「富裕国で有効なものが自動的に、顧客ニーズがまったく異なる新興国市場でも幅広く受け入れられるわけではない」(同書から)。

 同教授は、米小売最大手のWalmart-Stores社が新興国で始めた小型店舗の形態を米国に持ち込んで展開していることや、米General Electric(GE)社が中国向けに開発した携帯型の超音波診断装置が先進国でも関心が高まりつつあることなどの事例を紹介しながら、リバース・イノベーションの動向を分析している。

 その分析では、先進国と新興国の間に横たわる「性能」「インフラ」「持続可能性」「規制」「好み」のギャップを考えながら、新興国ではイチから商品やサービスの開発を始める必要があると説く。これらのギャップを解消する取り組みは、新興国で最初に採用されて、先進国へと移転していく可能性があるというのだ。

 そのキッカケは、先進国に残された市場が小さく投資を正当化できない「取り残された市場」の存在と、前述の先進国と新興国の間のギャップが狭まっていくことにあると、ゴビンダラジャン教授は見る。例えば、「性能」では技術の進化によって低価格でも先進国の消費者が興味を持つ水準になること、インフラでは先進国で本格化する老朽インフラの更新などがある。その兆候を逃せば、新興国ばかりか、先進国での市場を失う可能性があるというわけだ。