専門性や立場の異なる複数の識者が半導体の今と将来を論じる「SCR大喜利」、今回のテーマは「米Applied Materials社(AMAT)と東京エレクトロン(TEL)の経営統合を読み解く」である。半導体製造装置業界の大手2社の経営統合の背景には何があるのか、そして業界にもたらすインパクトとは。半導体業界の動きを常に追う5人のアナリスト、コンサルタントに聞いた。

 各回答者には、以下の三つの質問を投げかけた。本テーマ最後の回答者は、アドバンスト・リサーチ・ジャパン マネージング・ディレクター シニア・アナリストの石野雅彦氏である。

石野雅彦(いしの まさひこ)
アドバンスト・リサーチ・ジャパン マネージング・ディレクター シニア・アナリスト
山一証券経済研究所企業調査部、日本興業銀行産業調査部、三菱UFJモルガン・スタンレー証券エクイティリサーチ部を経て、アドバンスト・リサーチ・ジャパンでアナリスト業務を担う。その間一貫して、半導体、電子産業を対象にした調査・分析に従事している。

【質問1】2社の経営統合の背景にあるのは、半導体業界のどのような構造変化でしょうか?
【回答】 半導体投資企業の集約化、日本の半導体産業衰退や資本市場の装置企業評価低下

【質問2】2社の経営統合は半導体業界にどのような動きをもたらす契機となるでしょうか?
【回答】 次世代研究開発拠点の海外シフト、資本効率を追求する企業統合や組織再編

【質問3】半導体の技術進化(微細化/3次元化/大口径化など..)にはどのような影響を与えるでしょうか?
【回答】 パソコンの終焉とスマホの成熟化に続く成長商品に対応する、半導体技術開発の探求

【質問1の回答】半導体投資企業の集約化、日本の半導体産業衰退や資本市場の装置企業評価低下

 今回の経営統合は、上位の半導体製造装置企業においても、中長期的な成長を続けることが容易でないことを象徴している。TEL-Applied Holdings B.V.の「FORM S-4」によれば、半導体設備投資(Wafer Fab Equipment Spending)は、2013年度に280億米ドル、2014年度に330億米ドル、2015年度に380億米ドルに拡大するものの、2016年度には370億米ドルに減速すると想定している(図1、2、3)。

 半導体メーカーの設備投資は、韓国Samsung Electronics社、台湾TSMC、米Intel社の3社が、2013年に続いて2014年もそれぞれ100億米ドル超と寡占化する。一方、微細化に伴う次世代開発投資負担は各社の重荷になっている。

 オランダASML社のEUVリソグラフィ技術および450mm対応装置の開発に対して、2012年第3四半期に上述3社が5年間の研究開発投資として13億8000万ユーロを費やすことで合意するとともに、ASML株を38億4000万ユーロで取得したことは記憶に新しい(Intel社が10%、TSMCが5%、Samsung Electronics社が3%)。

 1980~1990年代に半導体設備投資を牽引したDRAM企業は、既に日本には存在しない。NANDフラッシュメモリーの東芝、パワー半導体の三菱電機などが元気なものの、成長が続くファウンドリービジネスにおける日本企業の影は薄い。

 また、2社の時価総額を見ると、2000年当時はAMATが900億米ドル、TELが300億米ドルにも達していたが、統合発表直前は前者が200億米ドル、後者が80億米ドル以下と企業価値評価が低下していたことは否めない(図4)。

図1●統合のスキーム(出典:TEL-Applied Holdings B.V.の「FORM S-4」とMIR)
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図2●統合会社の財務指標(出典:TEL-Applied Holdings B.V.の「FORM S-4」とMIR)
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図3●設備投資の見通し(出典:TEL-Applied Holdings B.V.の「FORM S-4」とMIR)
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図4●時価総額の推移(出典:BloombergとMIR)
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