NEアワード候補技術紹介(7):
磁性薄膜による無線ICの自家中毒抑制技術

東北大学 教授の山口正洋氏
磁性薄膜を形成したテストチップ(写真:東北大学)

 東北大学 大学院工学研究科 電気エネルギーシステム専攻 教授の山口正洋氏らの研究グループは、Siチップ内のデジタル回路からアナログ回路に伝わる電磁雑音を、チップ上に形成した磁性薄膜によって抑制する技術を開発した。内部から発生する電磁雑音が性能の低下を招く、いわゆる「自家中毒」がチップ内で発生するのを抑える狙いがある。

 山口氏の研究グループは、Co-Zr-Nb系の磁性薄膜が電磁雑音を吸収(熱エネルギーに変換)する効果がGHz領域で急激に大きくなる特性に着目し、高周波の電磁雑音抑制への適用を研究してきた。神戸大学大学院 システム情報学研究科・情報科学専攻 教授の永田真氏の研究グループ、ルネサス エレクトロニクス、NECと実施した共同研究プロジェクトによって今回の技術を開発した。LTEのRF受信回路を集積したテストチップを作製し、磁性薄膜を形成することによってRF回路部の性能劣化を抑えられることを確認した。

逃げ場がない状態に

 アナログ回路とデジタル回路を混載するミックストシグナルICでは、アナログ回路とデジタル回路の間で磁束や電流の結合が発生し、これが雑音となる。これまでは、アナログ回路とデジタル回路の間に金属の緩衝帯を設けたり、アナログ回路に影響を及ぼさないようにデジタル回路のクロックを調整したりといった対策を採ってきた。

 「これまでの対策だけでは逃げられなくなってきたICの一つが、無線通信のRF送受信ICだ」(東北大の山口氏)。無線通信で利用する周波数帯が拡大したことで、デジタル回路の動作に伴って発生する高調波(ある波の周波数を整数倍した周波数の波)が当たりやすくなった。集積するデジタル回路の規模が大きくなった影響もある。MIMOの導入やRF信号の高周波化、ICの高集積化によるものだ。