ただ、期待の一方、「IoTはシステムLSIの失敗を繰り返すことにならないか」と心配もしています。IoTはPCやスマートフォンと異なりアプリケーションが多種多様です。パソコンやスマートフォン向けのLSIのような、品種が少なく大量に販売できる市場というよりは、少量多品種でロングテールの市場になりかねない。「半導体はせんべい焼き」とも言われるように、半導体事業では同じ製品を大量に製造・販売するからこそ生産性が上がり、コストも下がります。

 少量多品種ではなく、少ない種類の製品を大量に販売することが重要なのは、製造をファンドリ(半導体受託製造会社)に委託し設計に特化したファブレス企業でも同じです。少量しか売れない製品を開発する際にも、大量に売れる製品と同規模の設計者が必要ですから。

 言い尽くされたことですが、日本の半導体メーカーのシステムLSIやマイコン事業では、顧客企業からの要求に応じて製品をカスタマイズし過ぎ、少量多品種のビジネスになってしまった。その結果、顧客であるセットメーカーや自動車メーカーには恩恵があっても、半導体メーカーは収益面で苦しみました。

 私はシステムLSIの開発の当事者ではなく、半導体業界の隣の領域(フラッシュメモリ事業)からシステムLSI事業を見ていました。傍から見ると、「様々な機能を1つの半導体のチップに集積すれば、付加価値がついてもうかるのではないか」というように、ビジネスモデルが曖昧なまま事業を突き進んで、結局、撤退に追い込まれたように感じました。

 IoTにおいても、単にそれぞれのアプリケーションに最適なハードウエアを多品種作ってしまったら、システムLSIの二の舞になりかねないのではないか。IoTではプラットフォームを作って、同じハードウエアをできるだけ大量に売る、応用製品に応じたカスタマイズはソフトで行う、といった仕組みが必要になるのではないか。