「火の見やぐら」「伝書鳩」「守護霊」「斥候」――。エレクトロニクスの専門誌ではなかなか出てこないこんな言葉が、取材や編集の過程で幾度となく飛び交いました。

 『日経エレクトロニクス』2014年3月3日号の特集「ロボット、空を飛ぶ」では、小型の無人ヘリの技術開発や応用の動向を取り上げました。フランスParrot社の「AR.Drone」が多くのメディアで取り上げられたり、米Amazon.com社が無人ヘリによる宅配サービス「Prime Air」の構想を発表したりしたことで、小型無人ヘリへの注目度が一気に高まりました。ただ機体を飛ばすだけではなく、空中から映像を撮影したり、人の代わりに物を運んだりするといった用途が見えてきたのです。

 その無人ヘリの可能性を議論しているときに出てきたのが、冒頭の言葉たちでした。現在の小型無人ヘリは無線操縦するものがほとんどで、趣味の世界で受け入れられています。今後は目的地まで自動で飛行し、状況に合わせて行動する“ロボット化”が進むでしょう。そのとき、やぐらを組まなくても高い場所から周辺の様子を観察したり、書類や小物を自分の代わりに届けたりといった役割を果たしてくれる可能性があるのです。

 ロボットヘリが多数飛び交うような時代がすぐにやってくるわけではなさそうです。少なくとも、あと数年はかかるでしょう。法律や業界の自主規制が未整備だったり、落下防止や巻き込み防止といった安全性確保のための対策が不十分だったりと、足りない点が多くあるからです。さらに、悪用を防止する手段を講じたり、「どんな場面であればプロペラの回転に伴う風切り音が受け入れられるか」というマナー面を考えたりすることも必要です。現在の無人ヘリは、「危険性を正しく理解した人だけが使うべき機械」なのだと思います。

 それでも、空を飛ぶことには抗いがたい魅力と、多くの価値がある――。取材ではそれを強く感じました。空を飛べば、障害物の少ない空間を移動したり、機械を空中に設置したりできるようになるのです。「ロボット、空を飛ぶ」で、無人ヘリが趣味の世界から飛び立ちつつある様子をご覧いただければ幸いです。