SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)への投稿を意識して、ランチで注文するメニューを選んだ経験はないだろうか。若年層を中心にメディアへの接触手段とその受容の形は大きく変容している。ソーシャルメディアの存在が当たり前の世代で、その変化は特に顕著だ。

 デジタルネイティブ世代のコミュニケーションの核は、写真や動画である。その力は絶大だ。動画を通じたインターネット上のやり取りは、リアルな世界での人の行動様式を変える力を備えている。

 世界や日本のマクロ環境の変化や、独自の消費者調査などを基に今後5年間の消費トレンドを予測したレポート『消費トレンド 2014-2018』(日経BP社)の著者で、消費者動向に詳しいキリン食生活文化研究所 所長の太田恵理子氏は、インターネットのバーチャル世界でのコミュニケーションに合わせて、リアルの体験の価値は大きく変わっていくと見る。(日経BP未来研究所

「動画」を日常的に使いこなせるか

 「Vine」「Snapchat」「TwitCasting(ツイキャス)」といったスマートフォン(スマホ)向けのサービスをご存じだろうか。いずれも中学生や高校生の間で人気を集めている動画共有ツールだ。

 Vineは、米Twitter社傘下の米Vine Labs社が開発したスマホ向けのアプリケーション・ソフトウエア(アプリ)である。スマホで簡単にショートムービーを撮影し、Twitterなどで公開できる。録画時間が最大6秒という制約が、かえって魅力になっているという。

 米Snapchat社のSnapchatは写真や動画を特定の相手に送信できるフォトメッセージアプリで、相手が閲覧したら10秒以内で自動消滅することが特徴だ。そしてツイキャスは、誰でも無料でスマホからライブ映像を配信できる、モイが開発した日本発のアプリである。いずれも日常会話のような気軽さで動画をやりとりすることが可能なサービスだと言えるだろう。

 スマホを活用したマーケティング調査を手掛けるリビジェンが全国の10~30代男女に実施した調査によると、ツイキャスの認知率は10代で39.2%、20代で21.9%、30代で12.7%、Vineは10代で22.5%、20代で6.5%、30代で4.2%と、いずれも10代が圧倒的に高い。

 キリン食生活文化研究所の調査から見た若年層に特徴的な情報行動も、米Google社傘下の「YouTube」やドワンゴの「ニコニコ動画」に代表される動画サイトにかかわるものだ。10代後半では男女ともに5割前後が動画サイトを毎日閲覧しており、特に男性では1日に10回以上見る人も1割に上る。見ていない人は極めて少ない。

10代後半では男女ともに半数以上が動画サイトを毎日閲覧している。キリン食生活文化研究所が2013年6月に実施した「食卓調査」の結果。図は、『消費トレンド 2014-2018』(日経BP社)を基に作成した
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 この調査では、10代後半の4割弱が「動画サイトがないと困る」と答えている。その割合は、男性ではテレビ、ポータルサイトに次ぐ3位、女性ではテレビに次ぐ2位になった。動画サイトは若者の生活に深く入り込んでいると言っていいだろう。

 10代から20代前半は、物心がついたころからSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などのソーシャルメディアが身近に存在する「デジタルネイティブ世代」である。この世代と、それよりも上の世代の最も大きな違いは、「動画」を日常的に使いこなせるかどうかなのかもしれない。最近も近所の公園で何人かの小学生がすべり台を使ったアクションを納得がいくまで何度も練習し、撮影することを繰り返していた。ソーシャルメディアに動画を投稿する層は、小学生にまで広がっているのだ。