日本の製造業を苦しめたリーマン・ショックから約5年半の歳月が流れた。この間には東日本大震災が日本を襲うなど、製造業のみならず日本企業を取り巻く経営環境はかつてないほど厳しい状況に追い込まれた。こうした猛烈な逆風の中、製造業は合理化や構造改革に腐心し、贅肉を徹底的に削ぎ落してきたのである。

 ところがようやくここに来て、アベノミクスや円安の追い風が吹き始め、新しい飛躍を求めて舵を切る機運が高まってきた。新しい飛躍、そのキーワードはズバリ「イノベーション」だ。果たして、製造業がイノベーションを起こすにはどうすれば良いのか――。上場企業から中堅企業を対象に経営革新の助言指導や教育で多くの実績を持つアーステミア社長の森岡謙仁氏に、その条件を聞いた。(聞き手は、荻原博之=日経テクノロジーオンライン)

――最近のSMBC日興証券の集計によれば、東証1部上場企業の2013年4~12月期の連結最終利益の合計が過去最高に、同じく経常利益の合計が2007年4~12月期以来の高水準になりました。森岡さんは、こうした好調な企業業績をどのように見ていますか。

アーステミア社長の森岡謙仁氏

森岡氏:例えば、リーマン・ショック後の2009年3月期に7873億円の巨額赤字に陥った日立製作所をみてみると、2014年3月期の通期営業利益は従来予想の5000億円から5100億円へと上方修正されました。これは、1991年3月期の営業利益5064億円を上回る数字で、23年ぶりの最高営業利益更新となりそうです。しかし、これで一安心かといえば、私はまだまだ安心できないとみています。

 日立製作所の場合、液晶やプラズマパネル、ハードディスク・ドライブ、パソコンといった主にコンシューマー系のビジネスから撤退し、「ソーシャルイノベーションビジネス」と呼ぶ情報系や社会インフラ系のビジネスに軸足を移しました。当期純利益を総資産で除したROA(Return On Assets)が他の上場大手企業に比べて低かった同社としては、私は当然の選択だったと思います。ですから、これで黒字といっても、少し運動しただけで無駄な贅肉が落ちたようなもの。円安の恩恵もあるので、まだまだ楽観視はできません。実際、先ほどの5100億円という数字についても、過去最高とみる一方で、7873億円の赤字にまだ追い付いていないとみることもできますから。

 日立製作所だけではありません。トヨタ自動車に関しても同じようなことがいえます。2014年3月期の営業利益は2兆4000億円になる見通しですが、継続的なコスト削減と円安で一息ついたとみるのが妥当でしょう。つまり、日本を代表する日立製作所やトヨタ自動車を含めて、ほとんどの企業の本当の実力は予断を許さず、3年後、5年後を見ないと判断できないと考えています。