前回はスマートフォン革命で安くなる半導体や電子部品、そして3Dプリンターの進化など、技術環境の変化がロケット開発にどう関わってくるかを聞いた。今回はそれに続き、ロケット開発で求める技術者や、ものづくり論に話が及ぶ。(聞き手は、池松由香=日経ものづくり、高橋史忠=日経テクノロジーオンライン)
―― (前回から続く)ロケット開発が冶金技術を進化させてきたというのは、特殊な材料を使う必要があるからということですか。
堀江 例えば、ロシアの冶金技術はすごいといわれています。ロシアのロケットエンジンで主燃焼室の前の副燃焼室というか、予備燃焼室みたいなところに使っている熱に強いタービンブレードの羽根は、もうロシア以外では作れないらしいんですね。だから、米国の主力ロケットの1段目はロシア製だそうですよ。日本でも、ロシア製のロケットエンジンを採用しようという話があったとも聞きます。
ロケットエンジンの効率をよくするには、一般に2段燃焼サイクルを使います。つまり、一回予備燃焼をさせて、要は不完全燃焼させて、それでタービンポンプを回して、主燃焼室にガスを送ってそこで本燃焼させるという仕組みです。「H-II」ロケットのエンジンも、「SSME」(スペースシャトルのエンジン)も、ロシアのロケットエンジンも2段燃焼サイクルを使っています。
ただ、エンジンの推力を上げるためには、さらに酸素リッチな燃やし方をしなければならない。酸素リッチになると燃焼温度が上がるので、タービンブレードの羽根のような金属部品は耐えられなくなるんですよ。
―― ロシアの羽根は耐えているわけですね。金属の材質は何ですか。
堀江 よく分からないんですけども、要は耐熱金属でしょうね。
ロシアのロケット技術は、ソ連が崩壊したときに、米国企業が特許ごと買いに来たという話もあります。「N-1」ロケットといって、アポロ計画と同じ時期にロシアが打ち上げようとしていたもので、ロケットエンジンが何十個と付いているピラミッドみたいな形をしたモンスターマシンなんですけど。「N-1」でネット検索したらたぶん出てきますよ。何回も失敗しているので、その豪快な失敗の絵が。
―― そのロケットは、月に行こうとしていたやつですね。
堀江 そうです、アポロ計画と同じ時期に人間を月に送ろうとしていたロケットです。そのロケット用に開発したエンジンがあって、本当は破棄される予定だったんだけれど、どこかの工場に保管されていたらしいんですよ。それを特許ごと米国企業が買い取って、バラして研究したそうです。そしたら「この金属、どうやって作るんだ」という話になって、結局自分たちでは作れなかった。だから、米国ではロシア製のエンジンを1段目に使っているそうです。
―― じゃあ堀江さんも、それを買ってきて使うんですか。
堀江 いやいや、僕らはそんなに性能のいいロケットは必要ないので。2段燃焼サイクルのエンジンは高いから、作りたくないですよ。安いガスジェネレーターサイクル(ガス発生器サイクル、2段燃焼サイクルよりも推力は劣るが開発・製造コストは抑えやすい)で、取りあえず宇宙に行けますよというロケットで構いません。
ガスジェネレーターサイクルは、第2次大戦中にドイツが開発した「V2ロケット」(実用的な液体燃料ロケットでは世界初といわれている)で使っていた技術です。最近、注目を集めている米国の民間ロケット開発企業の「SpaceX」(Space Exploration Technology社)もガスジェネレーターサイクルを使っています。「Falcon(ファルコン)」というロケットで使っている「Marlin(マーリン)」エンジンです。