先月の「勝手にコンサル」のコーナーで、筆者は「ソニーのルネサス鶴岡工場買収は可能性が低い」と主張したが、その直後に「ソニー、ルネサス鶴岡工場を買収」が事実として両社から正式にアナウンスされた。買収価格は約75億円で、CMOSイメージセンサー量産のために、2015年度までに275億円の追加投資も計画しているようだ。

 同工場の閉鎖を予定していたルネサス エレクトロニクスにしてみれば、地元の雇用も維持され、資産も有効活用されるため、極めてポジティブな話である。筆者自身、本件には何ら関わりはないものの、一業界人として、同工場の稼働が継続できることを素直に「良かった」と思っている。

 しかしアナリストとして、本件に関する疑問は拭い去れない。主張が外れたから言う訳ではないが、正直ベースでソニー本社の意向が理解できないのである。

 同社は「資産の軽量化」および「ハードウエア主体の事業形態からの脱却」を目指して、さまざまな改革を進めている。事実2月5日には、「VAIO」ブランドで展開していたPC事業を日本産業パートナーズに売却すること、及びテレビ事業を分社化することを発表した。

 現実問題として、PC事業もテレビ事業も赤字に陥っており、黒字を叩き出しているCMOSイメージセンサー事業とは別に考える必要はあるだろう。しかし収益とは別に、ソニーという会社は何を目指しているのか、CMOSイメージセンサー事業拡大のためにカネを注ぎ込むことが、同社にとってどんな意味を持つのか。

 同社のCMOSイメージセンサーは、自身のXperiaを含め、iPhoneやGalaxyなど、スマホの中でもハイエンドに属する機種に搭載されるデバイスで、その普及拡大の波に乗って実績を上げてきた。しかし昨今のスマホ市況は、これらハイエンド機種の売上が頭打ちとなり、伸びているのは売価100米ドル前後の超低コスト機種の方である。どんな市場でも、低価格品の台頭によって需要が拡大するのは必然的な流れであり、スマホ市場もその例外ではない。

 ソニーは鶴岡工場を手に入れた後、超低コスト機種もターゲットにするのか、スマホ以外のアプリケーションで新規需要を探すのか、それともCMOSイメージセンサー以外の新規デバイスを開発するのだろうか。そして鶴岡工場で展開される事業の方針戦略は、ソニーという会社が目指す姿の中で、どのような意味合いと位置付けを持つのだろうか。

 恐らく同社内ではさまざまな議論が行われていて、選択肢が整理されていることと推察されるが、外部の我々からは同社の方針を読み取ることができない。同事業部は分社してソニー本社とは別の道を歩むのでは、などと個人的には考えたりもしているのだが。

 蛇足ながら同社では、2012年頃から電池事業の売却案も浮上していた。かつては同社の稼ぎ頭だったポータブル機器に欠かせない蓄電池、とりわけリチウムイオン電池はキーデバイスと位置付けられてきたが、韓国や中国メーカーの参入で価格競争が激化し、社内で電池を内製する必然性が問われた結果と推察される。現時点で売却案は白紙撤回されているが、この手の話を出したり引っ込めたりすると、業界内での信用だけでなく社内のモチベーションにも影響するので、細心の注意を払う必要があるだろう。