バッターで言うと、イチロー選手くらい?

 何よりも大きいのが、経営トップがコンセプトの原型を認識できるということです。多くの企業の課題は、最初の段階で提案内容がどれだけとがっていたかを経営陣が知らないことだと思うんです。

 最初のとがった状態で見ていたら、「もう少し時間をかけてでも頑張ってもらうべきだった」と感じるかもしれない。でも、経営陣が知るときには既に角が取れてしまっているので、それが見えない。

加藤 とがったコンセプトを経営陣が見て、ゴーサインを出す。最終的に商品化につながるかどうかは、その時点では未知数かもしれないけれど、とりあえず勝負してみるわけですよね。イノベーションを生み出す際には負けの方が多いわけだから。

 そうなんです。その通りで、多くの大企業は勝負すらしないという現状があると思います。勝負しなければ、「0勝0敗0分」なんですよ。勝負せずに角が取れて丸まったコンセプトを再生産することしかできない構造に、何となくなっている。

 ベンチャー企業が次々と新しいコンセプトを打ち出せるのは、創業者が思いを持っていて、自分も考えるし、かつ意思決定者として自由な取り組みができるからです。会社が大きくなって歴史と伝統が積み重なるほどに、自己否定は難しくなります。だから、あえて意思決定のプロセスをシンプルにする必要があると思いました。

加藤 それは分かっていても、なかなか実行に移せる会社は多くありません。

 手前味噌ではありますが、この枠組みを許してくれたことがJTのすごいところだと思います。「そうは言ってもさ。本当にやるの」と言われてしまう会社が多いと思うので。

加藤 今までに経営陣に提案した新しいコンセプトは何勝何敗くらいですか。バッターで言うと。イチロー選手くらい?

 うーん。言っていいのかどうか微妙ですけど…。でも、まあそこは実際に商品が出たときに評価していただくということで(笑)。

 とても変な言い方かもしれませんが、このiCOVO自体が、大きな実験なんだと思います。この取り組みがイノベーションにつながるかもしれないし、失敗するかもしれない。我々も試されているという緊張感はあります。でも、うまくいくかどうかは、やってみないと分からないことですよね。だから、勝負してみようと。もちろん、やっている本人は、失敗する気が全くなかったりするんですけれど。