対談:東 信和 × 加藤幹之 

この枠組みを許してくれた会社はすごい

加藤 たばこのにおいを研究した後は、どんなことを手掛けたんですか。

東 信和(ひがし・のぶかず)氏
JT たばこ事業本部 事業企画室 イノベーション推進担当 部長。1968年生まれ。1994年3月、横浜国立大学大学院 工学研究院物質工学専攻修了。同年4月、JT入社、製品技術開発部。その後、たばこ中央研究所、研究開発企画部などを経て2011年より現職。2004年3月、九州大学大学院 農学研究院 生命機能科学専攻にて博士(農学)を取得。
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 においの研究が一段落してから、研究開発の企画部門に移りました。実際の研究開発というよりは、研究開発部門の戦略を練ったり、予算を見たりといった仕事です。それを2年間ほど担当して、研究所のマネジメント職を手掛けました。たばこの味と香りに関する研究グループのリーダーです。

 ちょうど最初の10年間は研究開発に携わって、その後の10年間は研究開発の戦略立案やマネジメント業務をしていたという感じです。

加藤 それから2011年に現在のイノベーション推進関連を手掛けることになった。

 JTは、もっとイノベーティブな会社になっていこうという議論が以前からありました。逆に言えば、特にたばこについては比較的同じような商品を作り続けていることもあり、イノベーションから少し遠い分野の印象がある。そういう会社としての自己反省がありました。その議論の中で、イノベーションの推進役となる専門部署が必要なのではないかということになったんです。

 そのタイミングで、たまたま自分が考えている問題意識を話す機会が別にあった。その内容と提案が経営陣の考えているものと近かったので、私に白羽の矢が立ったということだと思います。

加藤 それが「iCOVO」の設立につながったということですね。どんな問題意識だったのですか。

 企業内でイノベーションを阻害する要因は何かということです。それを考えると、大きく三つあると思ったんです。

 一つは、研究者や技術者の提案に対して、意思決定者である経営陣が判断できるかどうかということです。イノベーションにつながる取り組みは、コンセプトが新しければ新しいほど経営陣の理解を得にくい。それは、開発者と経営陣が日常的に見ている領域が異なるからです。

 開発者の興味は、自分が手掛けている研究開発の対象となるモノゴトにあります。もちろん、価値判断の基準をロジカルに説明するけれども、どちらかといえば自分にとって美しいとか、かっこいい、面白いといった主観的な部分が興味の大きな要素を占めます。

 一方、意思決定する方も研究対象のモノゴトに興味は持っているけれども、どうしても経営者として自分がコミットしている売り上げや利益が頭をよぎってしまう。だから、判断する際に重視する基準は過去の事例になります。経営者になるくらいですから自身の成功体験が多いこともあって、過去の事例を参照してしまうわけです。でも、新しいコンセプトは過去の事例と照らし合わせても当てはまらない。そこで意思決定が止ってしまう。

加藤 なるほど。確かにそうですね。