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安価な「農業クラウド」が農場を救う

安価な「農業クラウド」が農場を救う

競争環境と現場視点の支援サービスが育てる新しい農業

村瀬博昭=NTTデータ経営研究所 ライフ・バリュー・クリエイション本部 マネージャー
2014/02/17 00:00
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 現在、関係各国の交渉が進む環太平洋経済連携協定(TPP)の大きなトピックの一つは、農業である。交渉合意に向けた動きは流動的だが、自由化が進めば、外国産農作物との競争によって、未来の農業を取り巻く環境は大きく変化するだろう。

 世界に打って出る“攻めの農業”に転換する際の武器として期待を集める技術分野が「農業クラウド」である。インターネットのクラウド環境を活用し、農業の現場から消費者に届くまでの全般的な活動を支援するサービスのことだ。重要なのは、農作物の生産現場や流通過程で生まれる将来のニーズを捉え、実際に必要とされるサービスや技術を開発する取り組みである。

 市場を起点にした技術ロードマップを体系的にまとめた技術予測レポート『テクノロジー・ロードマップ 2014-2023』(日経BP社)の著者の一人で、農業の新たなサービス展開に詳しいNTTデータ 経営研究所 ライフ・バリュー・クリエイション本部 マネージャーの村瀬博昭氏は、将来のニーズを捉えて成功例を生み出し、競争環境を構築することが農業クラウドの発展につながると見る。(日経BP未来研究所

農業への新規参入を促進する効果

 インターネットのクラウド環境を活用した農業の支援サービス「農業クラウド」は、“攻めの農業”を実現する切り札として期待が集まっている。大半が零細企業である農業法人が導入しやすい低価格のサービスを提供できる可能性を秘めていると同時に、企業や個人の農業への新規参入を促進する効果が期待できるからだ。

富士通は、農業クラウドを検証・実践する場として同社沼津工場敷地内に「Akisai農場」を設置している

 今後、サービス提供が本格化し、多様化が進めば、特に若い農場経営者や管理者は業務を効率化したり、農作物による新サービスを創出したりするために農業クラウドを積極的に活用するようになるだろう。

 農業クラウドは、農場経営や農作物の生産、収穫した農作物の流通、販売管理といった、農業の現場から消費者に届くまでの全般的な活動を支援するクラウドサービスのことである。蓄積した統計データを用いて農場の業務をサポートするほか、経験による伝達が中心だった農作業のノウハウをデータ化して、素人でもベテランと同じように農作物を生産できるようにすることを目指している。

 日本には農業法人が約1万5000あるが、その大半は従業員が数人から十数人の零細企業である。従業員の少ない農業法人の大半は経営状況が厳しいため、システムの導入コストの負担が大きいIT(情報技術)の導入があまり進んでいなかった。現状では、規模の大きな一部の法人を中心にした採用にとどまっている。

 農業クラウドは、この状況を一変させる可能性がある。一般にクラウドサービスは、利用者数や使用するデータ量などに応じて料金を決めることが多い。このため、実は小規模な農場と相性がいい。予算に応じて必要なサービスだけを受けるといった利用形態を実現しやすいからだ。こうした形態を実現しながらサービス価格を低下できれば、農業クラウドの利用者は大規模な農業法人に加えて、個人農場にも広がっていくことになりそうだ。

 農業クラウドへのニーズは、既存の農業従事者よりもむしろ農業に新規参入する企業や個人の方が高い。新規参入組の多くは、農業についての知見やノウハウを持っていないからである。農作物の生産や流通などの知識を補完したり、農作業や農場経営の業務を効率化したりできる安価なサービスがあれば、利用したいと考える新規参入組の企業や個人は少なくないだろう。

 現在は農業自体の収益性が高くないこともあり、農業クラウドのサービスを提供する国内企業は数社程度と少ない。例えば、富士通は、農業クラウドの先駆けとなるサービスを2008年から手掛けている。同社は複数の農場で実際に試作サービスを使用してもらいながら、サービス運用の知見を蓄え、農場への提供が可能になった部分から順次提供している。ただ、農業の業務サイクルには1年に1度しか起きない事象もあり、農業クラウドの開発で農場におけるシステムの有用性などを確認するには長い期間を要する。

 こうした現場に根差した息の長い取り組みで実際の成功例が蓄積されることによって、農業クラウドの活用は次第に広がっていくだろう。農業クラウドの採用が拡大すれば、多くのシステム会社が多様なサービスを提供するようになる。そして、農場経営者が多くのサービスの中から自分の経営環境に合った農業クラウドサービスを選べる環境が生まれる。

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